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つん、と鼻先をつつかれて心臓が爆発しそうになった。いい加減予測したいのに全然できない。
「いきなり触んないで」
「ごめん。だってサクがかわいいから悪いの。いこ?」
「……ん」
なんだかすっかりいつものチカで、さっき振り返ったときのあの静けさとか、初詣の日から今日までのよそよそしさとか、全部一気にチャラにしたくなる。なにもなかったことにしたくなる。
……でも、今日までずっと気まずかったのは事実で、さっきまでずっと面と向かって話をしていなかったのも紛れもない事実だから。
このままうやむやになって、チカの気持ちを無視したみたいになるのはいやだ。その選択肢だけはありえない。
「……チカ」
お互いに紙袋をわっさわっさいわせながら並んで歩く。
意を決して声をかけると、チカは軽い調子で「なあに?」と返してきた。
まだうまくまとまってはいない。けれど、部屋に入ったら雰囲気に流されて全部なかったことになってしまう気がするから、だから話すならいまじゃないと、という謎の焦燥感にせき立てられる。
「ちょっと話がしたい」
少し声を張った。思わず立ち止まってしまうと、彼も同じように足を止める。
「なに? この間のこと?」
「……うん」
「そっか。……わかった。でも寒くないの?」
「平気。チカのこれ、あったかいから。オレのせいでチカのほうが寒いかも」
「俺は寒くないよ。じゃああそこのベンチでも座る?」
チカが何気なく指した場所は、駅前の小さな公園のベンチだった。
目にしたとたんに懐かしさがぶわっと迫ってくる。バイトの帰りに万奈の恋愛相談をきいたのがあの場所だった。泣きじゃくる万奈をしきりによしよししていたあの日、実は通りすがったチカに目撃されていたという事実は、だいぶあとになってから知らされた。
あれ見て、絶望しちゃった。そう言われて、つくづく難しさを実感したんだ。お互いに相手が男でも女でも関係なく嫉妬しあっちゃうのって、本当にしんどい。やめればいいのにって思うけど、勝手に嫉妬しちゃうのって自分じゃどうにもならないんだよ。コントロールできない。いまでもまだ、だめだ。
ふたりしてベンチに腰かけると、夜の静けさがしんと耳に響いた。この時間は電車の間隔もあいている。
「……チカ。この間のこと、……怒ってる?」
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