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なにから切り出せばいいのか迷ったあげく、答えなんてわかりきってるでしょ、なんて笑われかねない問いを口にしてしまった。喉が異様に渇く。
「怒ってないよ」
思ったとおり、当然のようにチカは即答した。でも笑いはしない。オレを見つめる視線はとても静かで、さっき振り返った瞬間にみたものと同じで、ひどく遠く感じてしまう。こんなに密着して、ゼロ距離で座ってるのに。遠い。
「俺がサクを責めるのは違うから。ひとりで考えて盛りあがってただけだからサクが気にすることないよ」
少し早口になる。自分でやばいと察したのか、チカはまだなにか言いたそうな口をぐっと閉じ、マシンガンを自ら封印した。
その代わりに、オレがちゃんと声を出さなくちゃだめだ。
「……あのさ、チカ」
息を吸い込むと、冷気がしゅっと怯えを凍らせてくれる。
「チカから一緒に暮らさないかって言ってくれて、オレ、ほんとはめちゃくちゃ嬉しかった」
「サク……」
「でもオレ、チカと……チカとほんとにずっと一緒にいたいって思ってるから、だから……もう少し待ってほしいんだ」
言葉を選ぶのは難しい。チカがまた勘違いして傷つかないようにって思うけれど、どこで線引きされるかなんて表情をみた後からでしかわからなくて、それがひどくもどかしい。オレのうちがわに燻ってるもの全部吐き出してしまいたいけれど、そのほとんどが言葉には言い表せない曖昧さで漂っているんだ。
チカはなにも言わず、先の言葉を待っている。いま口を開いたらろくなことにならないって、経験値で悟っているのかも。
「ほんとは、ほんとなにも考えなかったら、職場も一緒で家も一緒って最高じゃん。でも、チカはそれだけじゃないじゃん?」
「……それだけじゃないって?」
本当になにも心当たりがないみたいにきょとんとするから、チカ自身はやはりなにも感じていないのだとわかった。これはオレの問題だ。
「チカ、結局正社員になってさ。賞品開発担当とか正式に名前までもらってさ。帰ってからも仕事あるじゃん。ただのフロアの従業員になるオレとは、いろいろ違うじゃん」
「でもサクだって手伝ってくれるじゃない?」
「うん、それはそうなんだけどさ。でも背負ってるものが違うっていうか、所詮オレは社会人一年生にやっとなれるわけで、でもチカはもっと上の立場で」
「そんなこと気にしてたの?」
「あぁ違うよ、そういうんじゃなくて。お互いの立場がどうとかそういうのじゃなくて」
うまく言えない。でもチカを誤解させたり無駄に傷つけたくない。テンパってくる頭が沸点を越えないようにギリギリのところで堪える。チカだって一生懸命冷静さを保ってくれてるってわかるから。
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