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今日より先のあした
それは、毎年恒例行事になった初詣の帰り道だった。
今夜はあったかいうどんでも食べて帰りたいね、なんて、もうすっかり慣れた外食の話がチカの口から出てきて、ちょっとむずがゆいような気持ちに見舞われた直後のことだった。
「ねえ、サク」
「ん?」
「サクが卒業したら、一緒に暮らさない?」
「……えっ」
なんでもない話の延長線上みたいにさらっと言うから、一瞬取りこぼしそうになった。あからさまに動揺してしまったオレを見つめて、チカは小さく首を傾げる。
「いや?」
「えっ……いや、なわけ、ないけど」
「じゃあ、だめ?」
「だ……だめ、なわけ、ないけど」
けど、けど、と続けるオレの歯切れの悪い反応をみてなにがしかを悟ったのか、チカはしゅっと眉をさげて微笑んだ。
「ごめん、まだはやかったよね。忘れて」
言うなり歩調は速まって、目的の店に着くまでまったくの無言になってしまった。
誤解させた。
チカを傷つけた。
違うよそうじゃなくて、と言いたかったけれど、頭のなかでさえうまくまとまらない気持ちは、言葉になんかなるわけがなくて。結局、チカの言った「まだはやい」が一番しっくりくるのだと気づいて、オレはもう言葉を探すのをあきらめてしまった。
でも違うんだよ、いやなんじゃなくて、だめなわけでもないんだけど。むしろ本当は四六時中一緒にいたいんだから、一緒に暮らそうなんて言われて嬉しくないわけないし、なにも考えずに飛びつきたいくらいなんだけど。
でも、オレも少しはおとなになったんだよ、チカ。たとえオレがチカしかいらなくても、チカは……チカはそうじゃないって、もう充分すぎるくらいわかっちゃったんだよ。
そのあと食べたうどんの味は、残念ながらまったく覚えていない。
「なにおまえら、喧嘩してんの?」
バイトに入るなり、ロッカールームですれ違った星児さんに訊かれた。休憩中で、スマホを取りにやってきたところだったらしい。
「は? いきなりなに」
「チカの様子がへん」
相変わらず、チカと星児さんの間にはオレには超えられないなにかが存在しているらしい。言葉を介さずにお互いのだいたいがわかってしまうってすごすぎるし、正直羨ましい。ずるい。取り替えてほしい。あぁでも取り替えちゃったら、チカとは永遠に恋人どうしにはなれないからやっぱりいやかも。でも羨ましい。だってすっげえ特別な関係ってことじゃん。
「……別に喧嘩してるわけじゃねえもん」
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