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「後は…クラブだな」
「あぁ」
休み時間に、賢一と賢二が部員達への謝罪の言葉を考える。賢二が必要以上に厳しいことを言い続けてきたために、皆、大好きな吹奏楽を楽しめなかった。それを思うと、何を言っても足りない。
どう伝えたらいいのかわからないまま、すぐに放課後は来てしまった。
職員室の錦野に今日のクラブのスケジュールを訊いた後、二人は音楽室に向かった。部員達は既に楽器の準備を終え、二人が来るのを待っていた。(自分達で話すから、朝礼でのことは黙っていてほしいとクラスメイトの部員達には言ってある。)
「行こう」
「…うん」
音楽室の入口近くで一度足を止めた二人は、そう言って中に入った。そして部員達の前に立つと、小さく深呼吸をして賢二は言った。
「ミーティングを始める前に、少し話をさせてほしい」
いつもと雰囲気の違う賢二に、思わず部員達が注目する。それが睨まれているように見えて賢二は怯みそうになったが、賢一がポン、と背中を押した。
「大丈夫だから」
「…うん」
部員達の方を見直すと、賢二は謝罪の言葉を口にした。
「みんな…今まで、ごめん」
そう言って頭を下げる賢二を見て、部員達は目を丸くして驚いた。“賢二が謝ってる”…と。
「実は母ちゃんが死ぬまでにいろいろあって、賢二が心を閉ざすことになった。…俺のせいなんだ」
あれは俺が、と言う賢二に首を振り、俺がお前の気持ちをわかろうとしなかったからと言う賢一。二人が庇い合うのを見ていると、部員達は段々苛立ちが募り、一人の部員が声を荒らげた。
「お前達に何があっても、俺達には関係ないだろ!」
「そうだよ。賢二が俺達に当り続けたせいで乱れてしまったんだ。音も、チームワークも」
「吹奏楽が楽しいって思えなくて、すごく辛かったんだよ」
他の部員達も、これまでの思いをぶつける。
「その通りだ。俺達に何かあっても、みんなを巻き込んではいけなかった。悪かったと思ってる。本当にごめん」
「ごめん…!」
賢一と賢二は誠心誠意謝った。その気持ちが伝わってきたのか、部員達は“どうする?” “うーん”などと迷い出した。すると、里見が言った。
「取り敢えず、様子見てみるか。謝罪の気持ちが嘘だって感じたら、その時部長降ろせばいいよ」
里見の言葉に部員達は顔を見合わせたが、最終的に皆、頷いた。
「もう、当たったりしないな?」
「チームワークを乱すようなことも、しないよな?」
「部員のこと、ちゃんと見てくれるよね…?」
「うん。みんなのことちゃんと見ていく。チームワークを大切にしていく。約束するよ」
「だったら、いいよ。あっ、あくまで様子見だからな!」
「うん。ありがとう」
「あんがとっ!」
ほっとした表情で礼を言うと、賢二は背筋を伸ばし、しっかりと部員達を見て言った。
「それではミーティングを始めます!」
「はい!」
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