こういうことだったのかな。

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引退公演が終わり、新体制でのクラブ活動が始まったが、新部長の賢二は毎日、部員達の演奏や行動に対し厳しい注意をしている。その内容は異様なまでに細かい。 部員達は自分がいつ注意されるかと気が気ではなく一生懸命活動を続けていたが、注意されるだけの日々に疲れを感じるようになり、賢二に不満を持つようになっていった。 ある日のクラブ終了後。一人の二年生部員が賢二に言った。 「ちょっと細かいこと言い過ぎなんじゃないか?注意するにしても言い方考えた方がいいよ。厳しいことばかり言ってたら、みんなついてこなくなるぞ」 「…嫌ならお前が部長やれば」 冷めた目で見下すようにそう言う賢二を部員はキッと睨みつけたが、自分が部長をやりたくない部員はそれ以上何も言うことができなかった。 一方、他の部員達は賢一を取り囲んで詰め寄っていた。 「おい賢一、お前から賢二に言ってくれよ!」 「お願いします賢一先輩!」 部員達は切なる思いを賢一に託そうとしたが、賢一は両手を胸の前で広げ、困ったように笑いながらまあまあ、と言った。部員達は更にじりっと包囲の輪を狭める。 「お前が提案したんだろ!責任取れよ!」 「そうだよ!」 「賢二は吹奏楽に敬意を払ってるんだ。だからいい加減なことしたくなくてつい厳しいこと言っちゃうんだよ…」 「それは俺達だって一緒だよ!でもあんなやり方じゃみんな潰れちまう!お前だって本当はわかってんだ ろ!」 「辞めたいって一年生も出てきてるのよ!」 「うーん…」 部員達の言葉に、さすがの賢一も困ってしまった。賢一は、部長になることで少しずつでも賢二が人の輪に入っていけるようにと思ったのだが、思った以上に難しかった。 「賢一は賢二の味方か。賢一があてにならないとなると…錦野先生に言うしかないな」 「そうね…」 とにかく今の状況から脱したい部員達は、最後の望みと、職員室の錦野のところへ行った。 「お願いします、錦野先生!このままじゃ吹奏楽を楽しめません!」 「うーん…」 錦野も、賢一と同じく賢二が人とのコミュニケーションを取れるようになればと思っていたのだが、錦野から見ても、賢二の言動は行き過ぎているように思えた。錦野は部員達に、近いうちに賢二と話をするといった。 「お願いします!!」 願いを承諾してもらえて、部員達は心底ほっとした。
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