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部員達が賢二のことで懇願しに来た日から三日。錦野は賢二の言動を見ていたが、改まる様子がなかったので、クラブが終わった後賢二に声をかけ一緒に職員室に行った。錦野は自分の席の椅子に座ると、穏やかな表情で賢二を見て言った。
「どうだ賢二、部長をやってみて」
『…あぁ』
賢二は、部員達が錦野に自分の言動について話したことを瞬時に理解した。
「特に、何ということはありません」
「…そうか。でも、部を良くしようと、賢二なりに考えて頑張ってくれているよな」
「……」
穏やかな表情を崩すことなくそういう錦野に、賢二は少し苛立ちを感じた。“本当は そんなことが言いたいんじゃないだろ” と。
「部をまとめるのは大変だろう。それでも賢二のトランペットは少しもブレていない。リズムもテンポも正確で、寸分の狂いもない」
錦野がなかなか本題に入ろうとしないので、賢二は眉間に皺を寄せた。
『もうハッキリ言ってくれよ』
“賢二は部長に向いていない”って―――
「でも、賢二の言動にも、奏でる音にも、少し足りないものがある」
「!」
「奏者として、人として、とても大切な…賢二は、これから部長をやりながら、楽器を演奏しながら、その足りないものに気づいていくだろう。それに気づいた時、賢二の人生はガラリと変わる」
「……」
「まぁ、焦らずゆっくりやっていけばいい」
「…はい」
錦野に軽く一礼し、職員室を後にした賢二は、下駄箱に向かいながら自分に足りないものを考えた。本当は何となく、自分でもわかっている気がした。だが心の中にあるモヤモヤがそれを押さえ込んだ。
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