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二学期の終業式が終わり、学校は冬休みに入った。昼からクラブのある賢一は弁当を食べて教室を出た。寒っ…と呟いて、冷える廊下を早足で歩き音楽室へと向かう。
「賢一と賢二って、双子だけど似てないよな」
「ねぇ」
途中、そんな話し声が聞こえてきた。廊下の角を曲がったところに、同級生の男子生徒と女子生徒が話をしているのが見えた。似てないけど一卵性♪と思いながら二人を見る。
「性格も全然違うしな。賢一は明るいけど」
「賢二はちょっとね…何か病んでるっぽいし」
『!』
二人の言葉を聞き、賢一はカッとなって大声で怒鳴った。
「賢二の悪口を言うな!!」
「うわっ、けっ、賢一!」
驚く二人を賢一は凄い剣幕で睨み、もう二度と賢二の悪口をいうな!!と念を押した。で、でも本当のことだろと男子生徒が言い返すと、更に怒りが込み上げてきた賢一が男子生徒の胸ぐらを掴んだ。
「今度言ったらブン殴るからな!!」
「ぐ…わ、わかったよ」
賢一のあまりの形相に、男子生徒もそう言うしかなかった。賢一は乱暴に手を離すと歩いていった。賢二の悪口を言われるのは、自分に何をされるよりも辛かった。
「――― 遅いぞ!何やってたんだ!!」
賢二がクラブに遅れてきた賢一を怒鳴りつけた。もう既に活動前のミーティングが終わり、パート練習のための移動が始まるところだった。賢一はいつもの軽いノリで答えた。
「わーりぃわりぃ。ちょっと腹ン調子悪くてさ。ウ◯コしてた♪」
「大丈夫かよー(苦笑)」
「ちょっとぉ、女子の前でそんなこと言わないでよ(笑)」
「何でー?人はみんなウ◯コするじゃん…」
「早く楽器を用意しろ!!」
「はーい!」
賢一はカバンを置くと、音楽準備室に行った。
クラブが終わり、下駄箱で靴を履き替えている賢二に、一人の生徒が声をかけてきた。さっき賢二の悪口を言っていた女子生徒だ。声だけでそれが美香であることがわかった賢二は、胸がトク、と鳴った。
「先に謝っとく…ごめんなさい」
「?」
「賢二の悪口いっちゃったから」
「…わざわざ本人に言わなくてもいいだろ」
「賢一に聞かれちゃったから…賢二の悪口いった時、賢一、大きな声で怒鳴ってきたの。“賢二の悪口いうな!!”って…本当、凄い顔して怒ってたよ」
美香はそういうと、校舎の奥へと走っていった。
『賢一が遅れてきた本当の理由はそれか』
賢一が自分を庇う場面は容易に想像できたが、感謝の気持ちは湧くことはなく、ただ嫌悪感だけが、賢二の心の中に渦巻いた。
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