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錦野との話があってからも賢二が変わることがないまま、この年最後のクラブの日になった。いつものように賢二は錦野に活動のスケジュールを訊き、職員室を出ようとした。その時、突然頭がふらつき、賢二はその場で尻もちをついた。
「大丈夫か、賢二!」
錦野の声に、教師達が一斉に振り向く。賢二君!と、偶然職員室にいた養護教諭の小倉が、手にしていたコーヒーカップを机に置き、賢二のもとへ駆け寄った。すぐさま賢二の頭に手をやる。
「熱は、ないみたいね。でも顔色がよくないわ。貧血を起こしたのね」
賢二は小さく息を吐くと、閉じていた目を開いた。
「保健室で少し休みなさい」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃないわ。貧血を軽く見ちゃダメ…」
「あれ、賢二?」
職員室に入ってきた二年生部員の里見が、座り込んでいる賢二に気づき、声をかけてきた。里見はしゃがんで賢二の顔を覗き込んだ後、小倉の方を向いて訊いた。
「賢二、どうしたの?」
「貧血を起こしたみたいなの」
「そうなんだ。…大丈夫か、賢二」
「……」
「…賢一に知らせてくるよ」
そう言って立ち上がり、職員室を出ようとした里見を、賢二が止めた。
「賢一には言わなくていい」
鋭い目つきでそういう賢二に里見は一瞬ビクッとしたが、そんなわけにはいかないと言って、走って職員室を出ていった。賢二は入口を睨んで小さく舌打ちした。
音楽室に着いた里見は、入口から頭だけを突っ込み、大声で賢一を呼んだ。何事かと思いながら入口に来た賢一に里見が事情を話す。話を聞いた賢一は血相を変え、音楽室を飛び出して走り出した。
「今は小倉ちゃんと保健室に向かってると思う!!」
後ろからそう叫ぶ里見に、わかった、あんがとっ!!と返事をすると、賢一は保健室に向かい、凄い勢いで走っていった。
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