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「小倉ちゃん、賢二は!?」
保健室の戸を勢いよく開け、そう言って賢一が飛び込んできた。椅子に座ろうとしていた小倉が、そこにいるわよ、と答える。賢二は一番手前にあるベッドに腰かけていた。
「貧血起こしたって、大丈夫か、賢二」
「……」
賢二は何も言わず、冷ややかな目で賢一を見た。賢一は少し困ったように笑う。大事を取って、今日は家で休んでもらうようにしたわ、と、重い空気を払拭するように小倉が言った。
「わかった。じゃあ俺も帰るよ」
「一人で帰れる」
「ダメだよ。帰る途中で何かあったらいけないし、家も誰もいないし…」
「お前の世話にはならない!!」
ただでさえ一緒にいたくない賢一に情をかけられた賢二は、苛立ちが募って声を荒らげた。
「賢二君、それは言い過ぎよ!賢一君、本当に賢二君のこと心配して…」
「あぁ小倉ちゃん、いいよ…」
「小倉先生!」
錦野と、賢一、賢二のクラス担任の安畑が保健室に入ってきた。
「賢二が貧血を起こしたって聞いたんですけど」
「えぇ。今は落ち着きましたが、今日はクラブは休みにして下校してもらいます」
「そうですか。…賢二、気をつけて帰れよ。無理をせずに、ゆっくり、あ…」
「大丈夫、俺も帰るから。…錦野先生」
「こっちは大丈夫だ。さっき僕がミーティングして、今はパート練習に入っている」
「そうですか。すみません、副部長の俺まで帰ってしまって。あと、よろしくお願いします」
「あぁ」
「じゃあ。あんがとね、小倉ちゃん」
「えぇ」
保健室の入口で軽く頭を下げると、賢一は既に保健室を出ていった賢二を追い、走っていった。
「…賢二君が賢一君に邪険な態度を取っているとは聞いていたけど、あそこまでとは思わなかったわ。賢二君、心配する賢一君に、“お前の世話にはならない!!”って…」
「僕も、ずっと気になっています。話を聞こうとすると、“先生には関係ない” “プライバシーに口を挟むな” って…でも賢一がいつも明るくフォローしているし…」
「…安畑先生。賢一君が怒ったり辛そうにしたりしているのを、見たことがありますか?」
「えっ…そういえばない、ですね。いつも笑っています」
「そう。いつも、笑ってる。その分、心に秘めているものがあるかもしれません。賢一君のことも、注意して見てあげてください」
「はい」
安畑は、担任としてしっかり生徒を見なければと改めて思った。錦野も、小倉と安畑の会話を聞いてうんと頷いた。
『賢一君、賢二君…』
小倉は、近いうちに二人の間に嵐が巻き起こるのでは、という気がしてならなかった。
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