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 薄暗い部屋でも金色の髪は眩しかった。  生まれてから一度も色を入れたことのない自分の黒とは違う、ブリーチした白っぽい金。こんな髪色の人物と関わることなんて一生ないだろうと当然のように思っていた。それなのに今、僕はその人に跨って腰を揺らしている。 「んっ」 「はっ、すげぇ感じてんな」  下から僕を抱え込むような体勢で、目の前の男子、萩本雅紀くんは僕の奥を繰り返し突く。僕の中に埋まっているものが擦られる度、鼻にかかった声が勝手に口から漏れ出てしまう。  じっとりと湿気を含む空気の暑さと、快感によるじんじんとした暑さで、僕の身体には汗が滲んでいた。 「あぁっ、っぅ」 「声抑えたほうがいいんじゃねぇの」 「じゃあやめて、よ……っんん」 「今さら俺もお前も無理だろ」  カーテンが閉め切られている空き教室には僕と雅紀くんしかいない。けれど休み時間の今、いつ外の廊下を人が通ってもおかしくなかった。  こんな声を人に聞かれたくない。僕が学校で雅紀くんとこんなことをしているなんて知られたくない。それなのに、気持ちよさを求めるような動きで突き上げられると、堪らず声を上げ、腰を揺らしてしまう。  僕のはだけたワイシャツからのぞいている鎖骨にねっとりと舌が這った。かと思えば軽く歯がたてられる。捕食される側はこんな気分なんだろうかと、ろくに働かない頭で考える。 「……んぅっ」 「はぁっ」  捕食する側と捕食される側。僕たちの関係はそれに近い。  アルファである雅紀くんはどこか皆が憧れるような、人を引きつける魅力がある。詳しくはわからないが、喧嘩の強さとそういったカリスマ性で二年生にしてこの学校のトップに君臨しているらしかった。  着崩した制服と鋭い目つき、威圧する金色の髪。それだけでも普通の生徒は雅紀くんを恐れているが、不良と呼ばれるような生徒たちには恐れと、尊敬、憧れの視線を向けられている、と思う。  そうだと言い切れないのは、僕は雅紀くんのことをよく知らないからだ。ふたりで気持ちの良い行為をしていても、僕と雅紀くんが親しいわけではない。なるべく目立たず、不良なんかとは関わらずに過ごしたい僕は今でも雅紀くんを苦手に思っている。  それは雅紀くんだって同じだろう。地味で存在感がなく、無口で怯えている僕。いつもこわごわとしている僕に、雅紀くんがイラついているのはわかっている。  そんな正反対の僕たちが今まで何度も学校で秘密を侵してきたのは、僕がオメガで、雅紀くんの番だからだ。僕は雅紀くんのことが苦手で、雅紀くんは僕を嫌ってすらいるのに、ふたりでの行為は、どこまでも気持ちよくて、繋がっているという強い感覚を植え付ける。 「ふっ、ぅ……あっ」 「っ」  奥を突かれあまりの気持ちよさに雅紀くんのワイシャツを握ってしまった。怒られはしないかと不安になったものの、荒い息を繰り返す雅紀くんは僕の行動なんか気にも留めていない。 「ん、んっ」  体を揺らされながら思う。どうして僕の番はこの人で、この人の番は僕なのだろう。  もう何度目かわからないが、別の人が番だったならと思いながら、僕はまた熱い息をこぼした。
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