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 とある一軒家の前で僕は、インターフォンと見つめ合っていた。押そう押そうと持ち上げている指は、いまだにボタンを押せずにいる。  この家であっていることを確かめるために何度も表札に目を向けている。石の表札には確かに萩本と掘られていて、僕は息を吸い込むと意を決してインターフォンを押した。  ぴんぽーん、と間延びした音が聞こえる。しかしドアが開けられるのを待っている僕のもとに、誰かが来る気配はない。どうしよう。留守ってことはないよね。  諦めて帰ろうかという気持ちを抑えつけて、もう一度インターフォンを押した。やっぱり人の気配のない家に諦めようとしたとき、中から音が聞こえてその場で待つ。開けられたドアの向こうにいた人物は僕を見ると驚いたように少し目を大きくした。 「薫?」 「いきなりごめん……怪我、どうかなと思って」 「あぁ、そんなたいしたことねぇよ」 「そっか」  雅紀くんはたいしたことはないと言うが、相当な怪我だということはあの場にいた僕にはわかっている。口の端にはガーゼが貼られているし、きっと服の下には包帯が巻かれているのだろう。  あれから雅紀くんは学校を休んでいる。僕を助けるために怪我をさせてしまったことも心苦しいし、雅紀くんの容体が心配で、学校に来ていた雅紀くんの不良仲間に見舞いに行きたいから家を教えてほしいとお願いした。  僕から声をかけたのは初めてで驚いていた彼らだったけど、嬉しそうに僕に雅紀くんの家を教えてくれた。そのときに見舞いに行くならと、押し付けるように渡された飲み物が僕の手にあるビニール袋にたくさん入っている。 「家、上がってくか?」  数秒落ちていた沈黙に気まずさを感じ始めたところで、雅紀くんは口を開いた。家まで押しかけたというのに家に上がることまで考えていなかった僕は内心どうしようと焦る。しかし雅紀くんと視線が合ったときには自然と頷いていた。 「お邪魔します……」  階段を上ってすぐにあった雅紀くんの部屋は意外と綺麗にされていた。部屋を見渡しながら立っている僕に、からかうような笑みが向けられる。 「意外と綺麗だろ?」 「うん、あ、そういうつもりじゃ……」 「いいんだよ。汚ぇとうるせーんだ」  うるさいというのはお母さんだろうか、と雅紀くんの家族に考えを巡らせる僕に近づいてくる身体。辛そうに眉を寄せた雅紀くんに、心臓が切なく痛む。そんな顔をしてほしいわけじゃない。 「薫を巻き込んじまって、ほんと、悪かった」  いつも僕に真っ直ぐに向けられる視線が今は床に落ちている。雅紀くんが後悔していることが痛いほど伝わってきた。  自然と顔を上げてほしいと思った僕は、自分から雅紀くんとの距離を詰め、怪我に障らないよう力を抜いてその背に腕をまわした。珍しい僕の行動に、雅紀くんが息をのんだのがわかる。 「怖かったけど、雅紀くんが助けてくれたから大丈夫。僕のほうこそ、来てくれてありがとう」  この気持ちが少しでも伝わるように身体を寄せる。雅紀くんは何も言わない代わりに、僕の身体を抱き返した。服を隔てて伝わる熱が、心地良いなと思う。 「あんなに切れたのは久しぶりだった。いつのまにか俺、薫のことすげぇ好きになってた」  耳元の声が想いを溢れさせる。その言葉はとても嬉しいはずなのに、なぜか切なさで涙が出そうになった。 「僕も、雅紀くんのことがいつのまにか怖くなくなって、いつのまにか大好きになってた」  最初は違う人が番ならよかったと思っていたのに、いつのまにか雅紀くんが番で良かったと、そう思っている。抱き合ったまま僕も気持ちを溢れさせると、耳のそばで息だけの笑みを感じた。 「俺のことあんなにびびってたのにな」  明るい声が聞こえたかと思うと、出会った日のように、かおる、とゆっくり名前を呼ばれる。自然と身体を離した僕たちはお互いに熱っぽい視線を向けた。  お互い引き寄せられるかのように顔を近づける。目を閉じた僕の唇に、柔らかな感触が押し付けられた。 「ん」  押し付けられた唇は僕の唇を堪能するかのように何度も角度を変え、吸いつく。ちゅっちゅっというリップ音がやけに大きく聞こえて、恥ずかしさで頬が火照った。 「薫、口開けろ」  これでいいのだろうかと思いながら薄く口を開くと、隙間から舌がねじ込まれる。口内を掻き回し僕のものに絡みつく舌に、身体の奥の熱が刺激された。 「ん、はぁっ」  ようやく離れた唇に息を整えていると、また身体が抱きしめられる。まるで足りないというように腰を押し付けられ、硬いものが擦れる感触に肩がびくりと揺れてしまう。 「……今すぐ薫の中に入れてぇ」 「だ、駄目だよ、怪我してるんだから」 「わかってる」  真っ直ぐすぎる言葉に焦りと照れを浮かべながらも、雅紀くんがそう思ってくれることに喜びを感じていた。以前なら快感を求めてだったが、今はそうではないとわかる。  だからか、以前にはあり得なかったことを気づけば口にしていた。 「僕が、やるから。雅紀くんはじっとしてて」  ベッドに腰掛けている雅紀くんの足の間に、僕は身体を埋めていた。床に膝たちの状態でいる僕の顔の高さに、雅紀くんの下半身がある。  ズボンは脱ぎ下着だけになっているそこに指を這わせると、雅紀くんは少し眉を寄せた。 「ごめん、痛かった?」 「気持ち良いにきまってんだろ」  痛いわけではなかったとわかると、今度は下着の上から手全体で撫でつける。そのまま上下に動かすのを繰り返す僕に、雅紀くんは短い息をもらした。  たどたどしい動きだろうに気持ちよさを滲ませる雅紀くんに喜びを感じて、下着を下にずらしていく。硬くなり存在を主張しているそれが現れると、顔を近づかせ舌でちろちろと舐めた。 「っ」  どんどん大胆になっていく僕は舌でゆっくりと形をなぞると、ついに口内に含み雅紀くんのものを咥える。じゅっと吸ったり咥えたまま顔を前後に動かして夢中になって刺激を繰り返した。 「薫……っ」  舌と顔を動かしながら左手は自分の下腹部へ持っていく。雅紀くんに見られていることも忘れて硬くなっている自分のものを指でなぞると、ぞくぞくとした快感が背中を駆け抜けた。  はしたないとわかっているのに刺激への欲求は止められなくて、自分のものも左手でこすり付ける。荒くなっている雅紀くんの呼吸に合わせるみたいに顔を動かすスピードを速めると、声にならない吐息が落ち、すぐに僕の口の中で熱が放たれた。
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