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09
客を呼び込む声や、はしゃぐ子供の声、それを叱る母親の鋭い声、そして夏の夜を楽しむ多くの声を聞きながら、僕たちは歩いていた。道の両側に並ぶ屋台からは香ばしい匂いが漂ってくる。
「薫、あとは何も買わなくていいのか?」
「うん、もうお腹いっぱいだから」
隣から聞こえた声に顔を向けると、浴衣姿の雅紀くんが僕に視線を向けている。金色の髪が映える濃い紺の浴衣は彼によく似合っていて、照れと少しの緊張ですぐに視線を外した。もうすっかり頬のガーゼも取れていて、傷跡もない。
「浴衣、似合ってるな」
まさに今考えていたことと同じことを言われてまた顔を上げる。はっとして雅紀くんを見ると、照れくさそうに僕から屋台に視線を向けた。その反応に、胸に温かなものが広がる。僕は深い緑色の浴衣を着ていた。
「雅紀くんのほうこそ、似合ってるよ」
「あぁ、それであんまこっち向かないのか」
「っ……だって、どきどきするから」
「お前なぁ……」
浴衣姿の雅紀くんにどきどきしてしまい視線を合わせられないと言い当てられ、恥ずかしさで顔に熱が広がる。
言い訳のように正直に話す僕に雅紀くんは片手で顔を覆った。髪の隙間からのぞく耳が赤くなっているのに気付くと、心臓がきゅっと縮む。
花火の打ち上げ開始を前に、僕と雅紀くんは屋台をぶらぶらと歩いていた。お互い気になった物を買っては歩きながら食べているため、焼きそばとお好み焼きを食べた僕は満腹だ。
それにそろそろ花火を見るための場所を取らなくていいのだろうかと思う。屋台の並ぶ道の脇にはすでに多くのビニールシートが敷かれていた。打ち上げ時間が迫るとともに、場所を見つけることも難しくなるだろう。
「じゃあそろそろ行くか」
「え、どこに?」
「いい穴場があんだよ」
手に熱が触れてしっかりと握られる。驚きながらも雅紀くんを見ると、にやりとした笑みが返ってきた。
そのまま場所を教えてもらえることもないまま、僕は雅紀くんに手を引かれて穴場スポットへと向かった。
どん、と響く音が骨まで揺らす。黒の夜空に赤、青、黄色、と様々な色形の花火が浮かんではきらきらと消えていく。
雅紀くんが僕を連れてきた穴場は、屋台が並ぶ中心地から少し離れたところにある小さな公園だった。穴場と言うだけあって僕たちふたりの他には誰もいない。
山のような形の中心をくり抜かれトンネルみたいになっている遊具に雅紀くんは腰掛け、その雅紀くんに後ろから抱きしめられる形で僕も座って花火を見ていた。
僕のお腹にまわされた手も、後ろにぴったりとくっついている身体も僕をどきどきとさせて、せっかくの花火にも集中できていない。
けれどそのことを悟られないよう夜空だけを見上げていた僕の耳元で、どこか熱っぽい声が鳴った。
「花火、すげぇな」
「うん、綺麗だね」
花火のことを言っているのにどこか心ここにあらず、といった感じがするなと思っていると、突然ぬめりとした感触が耳に触れて肩が揺れる。
耳を舐められているのだと気付いたときには、浴衣の合わせ部分から手が侵入してきていた。
「雅紀くん?」
「なぁ薫、もう怪我は治ったからいいだろ」
「でもここ、外だよ……」
雅紀くんとそういった行為をしたいかしたくないかで言ったら、僕だってしたいに決まっている。
でもここは外だし、いくら人が見当たらないといってもそばの道路には時々人が歩いている気配がする。
「んっ」
襟から侵入した手が僕の肌を撫でつける。胸の先端を指で擦られると、甘い声が出てしまって咄嗟に口を手で覆った。
「花火の音でどうせ誰にも聞こえねぇよ」
耳を食んでいた唇が移動して、今度はうなじが吸い付かれる。ちゅっちゅっと何度も吸う雅紀くんは僕のうなじに跡を残しているのだとわかった。
それと同時に浴衣の下で滑る手が僕を攻め立てる。執拗に胸の先端を擦られ、指でつままれるとその度に吐息が漏れた。
「あっ、あぁっ」
声を我慢したいのに雅紀くんの甘い刺激に、はしたなく声を上げてしまう。
繰り返し肌を撫でていた手が下にくだっていったかと思うと、帯の下の裾の部分を大きく開かれた。
明るいところで見られるよりはましだけど、一定の間隔を空けて花火の明るさで照らされるのも恥ずかしい。そんな僕の下腹部に手が触れた。
すでに硬くなり始めているそれを下着の上からなぞる手。たったそれだけのことなのに雅紀くんの手だと思うと勝手に腰が浮いてしまう。
「あっ」
何度か撫でつけていた手は一旦動きをやめ、僕の履いている下着を脱がせた。
ずらすだけではなく脱がされたことで、本当に雅紀くんはここで最後までやるつもりなんだと、恥ずかしさと期待が混ざる。下着がなくなり外気に晒されるそこを覆った手が激しく扱きはじめた。
「あっ、んんぅ」
「気持ち良いか、薫」
「ん、きもち、いいよ、まさきくんっ」
気持ち良くされているのは僕なのに、僕のそんな姿を見て雅紀くんも息を荒くしている。耳に触れる熱い息も僕の熱を大きくさせた。
「ちょっと体勢変えるぞ」
僕の後ろにあった身体が移動し、僕の身体は雅紀くんが座っていたトンネル部分に四つん這いにされる。
すっかりはだけた浴衣の裾が捲られると、自分の唾液で濡らした雅紀くんの指が急くように入ってきた。
「ふ、ぅっ……あぁっ」
「薫の中、すげぇあつい」
いつのまにかふたりとも花火のことを忘れて夢中になっている。もう夜空を彩る花火は見えないけど、どん、と大きな音だけは相変わらず響いていた。
痛がらない僕に指の数が増やされ、中を解される。早急さのなかに以前にはなかった優しさを感じて、胸が甘く軋んだ。
「もういいか?」
「うん、大丈夫」
頷いた僕から指を引き抜いた雅紀くんは、財布から取り出したコンドームの封を切る。準備が終わると解されたそこにぴったりと熱がくっつけられた。
「入れるぞ」
「ん」
短い言葉の後、ゆっくり僕の中に雅紀くんが入ってくる。ただそれだけのことなのに、背中には快感が走った。
「あっ、あっ」
すべてがおさまるとすぐに抜いては入ってという動きが始まる。花火の音に混ざって、ぬちぬちという音が耳に届いた。
「薫」
「んっ、あっ、……そこ、だめっ」
腰の動きとともに、僕の熱を手が覆う。中を擦られながらそこも弄られると、気持ち良すぎてどうにかなってしまいそうだった。
「まさき、くんっ」
「気持ち良いだろ」
「ん、だめっ、いっちゃう……でちゃうからっ」
「そのままいけよ、俺で」
「あっ、んっ、んんーっ」
「……っ」
中を擦られると同時に激しく熱を扱かれて、我慢していたものがいっきに弾け身体を震わせる。
襲いくる気持ち良さにぼんやりとしていてよくわからなかったが、雅紀くんも達したようだった。
「薫」
繋がったまま名前を呼ばれて顔だけで振り返ると熱い唇が触れる。噛みつくようなキスは荒々しさのなかに確かに愛しさを含んでいた。
僕も雅紀くんもお互いがお互いを特別に思っている。以前だったらそれは、番という存在だからだった。しかしそれも、今は違う。番というだけではなく、愛しさを抱いているというのが強く伝わってくる。
雅紀くんが僕の番で良かったと思いながら、僕も激しいキスに応えた。
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