さしあたって、することは?

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(………ティアラの名前は、私の想像力(ボキャブラリー)が貧困なせいだろうな。)  そもそも、そのファンタジー小説は図書館で借りた古いものである。けれど、内容は古さなど感じさせない、面白いものだった。  冒険あり、ミステリーあり、恋愛ありで、最後は大団円のハッピーエンド。『華宵』の好みが凝縮されたような物語だったから。  シリーズ化されていて、全五巻の長編もの。何度も読み返したい位だったが、施設育ちの華宵には、当時はとても手が出せる(購入できる)ものではなかったし、手が出せるようになった頃には、既に絶版になっていた。  多分、図書館にはまだあるかも知れないが。最後に図書館に訪れたのは中学生………六、七年前にもなるから、ハッキリとはわからないけれど。  それでも、あらすじ………と言うか、内容はよく覚えている。流石に、一言一句間違いなく、とはいかないけれど。  心に強く残っている場面や台詞はいくつもある。ただ、何故か作者が不明なのである。古いものだから、と言うだけではない。その小説の作者は名前(おそらくP・N(ペンネーム)だろうが)しかわからず、性別はおろか、当時の年齢さえもわからない『正体不明の覆面作家』だったのだ。  そして。何故か、その作家の作品は、その小説が唯一のもので、それ以外の作品は世に出ていない。  完全な『一発屋』とも考えられなくもないが、華宵………ティアラには、そうは思えなかったのだけれども。
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