母子

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照りつける陽差しに首筋がヒリヒリと痛い。  私は買い物を終えて、店から家までの道のりをゆっくりと歩いていた。  今年の夏はとてつもなく暑い。  雲ひとつない青空にぎらぎらと太陽が光り輝いている。  手にしているスーパーのビニール袋の中には、アイスがぎっしりと詰め込まれていて、そこから流れ出る冷気がせめてもの救いだ。  腕を汗が走る。体中がベトベトしている。  家にたどり着くと、ドアを開けて中に入る。  この夏、エアコンは故障しており、明日の昼頃に修理の人が来る。それまでは扇風機で我慢しなくてはならない。  地獄のような日々だ。  私は部屋に入るなり扇風機をつけた。  扇風機の風にずっと当たっているのは気持ちが悪いので首振り状態にしておく。  扇風機とはいえども、何もないのに比べてだいぶ救われた。  私は疲れ果ててソファに座った。  ハッと目が覚めて、居眠りをしていたことに気が付く。 「いけない、いけない」  私は立ち上がって大きく背伸びをした。  蚊取り線香の臭いが鼻をつく。  買いものに行く前に草むしりをしていたのだが、その際につけた蚊取り線香がまだ残っていたようだ。  窓を開けて網戸にしていたため、風に流れて家の中に入ってきてしまっていた。  私は蚊取り線香を消しに行く。  庭へ向かおうとするや否や、玄関から小学校帰りの息子の声が聞こえた。 「たいだいまー!」  こんなに暑い中、よくもあんなに元気でいられるな。  私はそう思いながら玄関の方を振り返り、「お帰り」と言おうとした――その時だった。  私の目の前を、小さな黒い物が横切る。  あの虫が出す不愉快な音が耳をくすぐる。    ぷーん。  私は叫んだ。 「優くん! 家の中に蚊がいる!」 「えっ、どこどこ!?」  部屋の扉が開き、息子が入ってくる。 「そっち行ったよ!」  私が言うと、息子は「えいっ」と両手で蚊を挟んだ。  パチンッ!    息子がゆっくりと手を開くと、そこにはペチャンコに潰れた蚊の姿があった。  息子が笑顔で私を見ている。 「優くん、ナイス!」  私がそう言うと、息子は喜んで部屋の中を走り回った。  私が夏を嫌う理由の大きな一つは蚊がいることだ。  何故、あんな虫がこの世に存在するのだろう。  人さまの血を美味しく頂こうなんて、悪い虫だ。  他の生物に害しか与えない。 「お母さん、おやつちょうだい」 「はいはい。今日はアイスクリームだよ」 「わーい! アイスクリーム!」 「じゃあ、手を洗ってきてね」 「はーい」  息子が洗面所に走り去るのを見送った後、私は床に黒い塊が落ちているのを見つけた。 「まあ、三匹も入っていたのね」  私は二匹の蚊の死骸を指で摘まむと、ゴミ箱へぽいと放り込んだ。
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