第六話 手作りチョコ

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第六話 手作りチョコ

 僕は、ドキドキしながら、小箱を開けさせてもらった。 「うわ~~~ッ! 美味しそ~~~ッ!」  僕は、思わず、見とれた。見とれてしまった!    これが、手作りチョコなんだ! 女の子が、好きな男のことを思って、一生懸命に作った、バレンタインのチョコレートって、こういうのを言うんだ!  一粒一粒(ひとつぶひとつぶ)丁寧に、一口サイズに丸められた、所謂(いわゆる)、生チョコ的なチョコレートが、色とりどりに敷き詰められていた。 「ねぇ」 「んっ?」 「見とれてないで、何か、グルメレポーターさんみたいな、コメントとかないの?」 「うわぁ~~~ッッッ!!! バレンタインチョコの~~~ッッッ!!! 宝~石~箱や~~~ッッッ!!!」 「アハハッ! そういうの、そういうの♪ モテないくん、ノリいいね~ッ♪」 「あざ~っす!」  僕が知らない世間(せけん)では、毎年、モテ男たちは、女の子から思われて、こんな手間のかかった、美味しそうな手作りチョコをもらっているのか~……。  (うらや)ましい気持ちと、悔しい気持ちが入り乱れ、こんなのをもらったことのない僕は、若干、社会見学でもさせてもらっているような気持ちでもあった。 「私、コレ、いっただっきま~ッす!」 「コーンフレークやないかいッ!」 「何かッ?!」 「コーンフレークって、だいたい、朝食べるんちゃうの?」 「そんな法律でもあるの? アハハッ♪」 「アハハッ♪」  彼女は、生チョコにコーンフレークがまぶしてあるのを、一口で、パクリッ♪  ー パリッパリッパリッ…… ー 「あっ!」 「んっ?」 「ハートがブレイクする音だね♪」 「うるさいの!」  僕を横目にキッと(にら)んだ後、彼女は、川の方を向いて、目を閉じた。川の流れに耳を済ませながら、もぐもぐと、チョコを味わう、彼女の(くちびる)が可愛いかった。 「あ~、美味しかった! モテないくんも、好きなの食べなよ♪」 「じゃあ~、コレ、いっただっきま~ッす!」 「どうぞ♪」  僕は、生チョコにココアパウダーがまぶしてあるのを、一口で、パクリッ! 「んーーーッッッ!!!」 「どう? 美味しい?」  彼女は、僕の顔を(のぞ)き込むように(たず)ねた。 「お……、おいひ~ッ!」 「そっ♪ よかった♪」  彼女は、ニコッと安心した表情を浮かべると、川面(かわも)を見つめ直した。僕も、川面を見つめながら、ゆっくり目を閉じて、一噛(ひとか)一噛(ひとか)み、ゆっくりと、ほろ(にが)さと、口どけの甘さを味わった。  お……、美味し過ぎる……。  美味し過ぎて……、思わず……、ポロリ……。  不覚にも、涙がポロリ……。 「あれ~ッ? モテないくん、美味し過ぎて、感動してたりする~?」  図星だった……。 「俺、こんなのもらったことなくてさ~」 「うん」 「世間のモテ男たちは、女の子たちから大事に思われて、こんなの作ってもらってるんだな~って思うとさ~、ただただ、ジェラシーな気持ちと……」 「『ジェラシー』だって! 欧米かッ!」 「フラレちゃんも、好きな男のことを思って、コレ~、一粒一粒、丁寧に、作ったんだろうな~。それを、受け取ってもらえなかったんだもんな~。……とかって思うとさ~、何だか、泣けて来ちゃったよ~」 「へぇ~~~」 「バカみたいでしょ?」 「やさしいね!」 「え、えぇっ?!」 「君を思って作ったチョコじゃないけれど、そんな風に思ってもらえて、ちょっと、うれしいよ。……ありがと♪」  河原の風が、ヒュ~~~……っと、僕の涙を揺らした。 「でも、いいの!」 「んっ?」 「女は愛嬌(あいきょう)! 女は度胸(どきょう)! 撃沈(げきちん)したら、次の恋!」 「強いね!」 「ヘヘ~ンッ♪」  彼女は恥ずかしげに、右手の人差し指で、自分の鼻の頭を(こす)っていた。 「モテないくんも、来年は~、手作りの本命チョコ! もらえると、いいね!」 「そだね~」 「アハハ♪」 「誰からももらえなかったら、フラレちゃん、作ってよ!」 「いいよッ!」 「えーーーッッッ!!! ほんとにーーーッッッ?!!」 「ほんとにッ!」  えっ、これって、もしかして~……、彼女が言う、『次の恋』、なのか~ッ?! 「手間賃(てまちん)はサービスしとくけど、材料費だけは請求するから♪」 「何でッ?! 『本命チョコ』、作ってくれんでしょッ?」 「『本命チョコ』は、私が、自主的に作るチョコ♪」 「はい……」 「『誰からももらえなかったら、フラレちゃん、作ってよ!』って、君から頼まれて作るのは、注文ッ!」 「『注文』ッ!」 「そう! ケーキ屋さんが、誕生日ケーキや入学祝いとかで(うけたまわ)る、ケーキの注文と一緒♪」 「出たッ!」 「そりゃ、そうでしょ~よ。本命じゃないんだもん♪」 「……だね。ハッキリ、キッパリ言うね~」 「アハハ♪」 「じゃあ、そんときゃ、オーダーさせて頂きます!」 「『オーダー』だって! 欧米かッ!」 「アハハ♪」    彼女の明るさが、何とも心地よかった。  僕たちは、その後も、一粒一粒、フラレちゃんの手作りチョコを味わいながら、何気なく、黄昏(たそがれ)た。 「じゃあ、そろそろ、帰ろっか? 今日は、思いがけず、ごちそうさま♪ 美味しかった♪」 「どういたしまして♪ モテないくんと話せて楽しかった。ありがと♪」 「こちらこそ、美味しかったし、楽しかった♪ ありがと♪」 「ねぇ」 「んっ?」 「名前とか、連絡先とか、聞かないの?」 「だって、失恋したばっかの女の子の、弱ってるところにつけこんでるみたいで、いやらしいじゃん」 「へぇ~、意外と、紳士なんだね!」 「また、バッタリ会うようなご縁でもあれば、そんときゃ、教えてよ」 「オッケー♪」  撃沈したはずのバレンタインデー。  夕暮れの河原の風が、心地よかった。 ★『バレンタインなんて、嫌いだーーーッッッ!!!』★ ー 完 ー
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