写真には写らない

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写真には写らない

「写真は嫌い。写したい嘘が写るから」  彼女、薄羽利奈(うすばりな)はそう言った。 「写真はその人の真実を写す、とかよく言うじゃない? そんなの嘘。人はカメラを向けられるとカメラに意識を向けるでしょ? それでやりすぎくらい満面で笑ったり、韓国で流行ってるポーズ取ったりするでしょ? それのどこが真実なの。そんなの写真用の作り物じゃない」 「まあ確かに。わかる」  僕、厚実瞬(あつみしゅん)はそう言った。 「風景写真ならまだ良いけど。人物写真はなんか苦手。笑顔の写真を見ても『この笑顔、シャッターを切った後消えてんのかな』とか考えちゃうし、視線を逸らしてる写真を見ても『うわ、絶対この人撮られてるのわかってやってるよ』とか考えちゃうし」 「なるほど、まあわかるな」  僕は利奈の目を見て頷く。 「でしょ? つまり写真に写るのは、その人が『こう写りたい』と思う瞬間なのよ。その魅せ方に上手い下手はあれどね。でもそれって真実とは真逆のものでしょう」 「わかるわかる」  僕は腕を組んで深く頷く。 「だから、私は写真が嫌い。撮るのも撮られるのも苦手。できるだけ自分の目で、本物を見て生きていきたいと思うのよ」 「あー……」  僕は目を閉じる。 「――わかる」
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