僕にはわからない

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僕にはわからない

「わ、か、ら!! ないっ!!」  自宅のソファでクッションに顔を埋めながら僕は心の叫びを漏らした。ソファのひじ掛けで丸くなっていた猫のシラタマがビクッと跳ねた後に「にゃんご」と鳴く。  僕はわからなかった。  彼女はどうしてそこまで写真が嫌いなんだろう。  彼女に嫌われたくなくて「うんうんわかる」とか言ってたけど実際全然わからん。  だって、僕は彼女の写真が撮りたいんだから。  僕と利奈は付き合ってもうすぐ半年が経とうとしていた。  それなのに僕は彼女の表情が映ってる写真を一枚も持っていなかった。  僕は彼女の写真が欲しい。  彼女の色々な表情が僕は好きだった。  綺麗なものを見て楽しそうにしてる笑顔とか、難しい本を集中して読んでる顔とか、眠そうな時のちょっととろんとした顔とか。  そりゃあ何度も見返したいさ!  なんか疲れた時とか気分が沈んでる時とかに見て、ああ明日からも頑張ろうとか元気付けられたいさ!  何度かそれっぽい理由をつけては写真を撮ろうとしたこともあった。  話題のカラフルですごく伸びるチーズ料理を食べに行ったり、少し遠出して観光名所を回り「旅の記念に」と顔出しパネルを薦めたり、犬カフェでかわいい子犬たちが彼女の下に行くよう仕向けてみたり。  結果は全滅。 「写真はダメ。嫌いなの」  その一点張りだった。 「あなたには本物の私を見てほしいの」  見てるよ! めっちゃ見てるよ!! でも明日も見たいんだよ!!! 「てか本物ってなんだよ……」  その呟きに答えてくれそうな人はおらず、答えてくれそうな猫はうんともすんとも言わなかった。  
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