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勇者にはなれない
高校二年生のクラス分けで利奈と出会った。
それでも僕は一年前から彼女のことは聞いたことがあったけれど。
彼女は有名人だった。
その整った顔立ちと凛とした声、成績も良いクールビューティー。
薄羽利奈はスクールカースト最上位。畏れ多くて話しかけるのも憚られる高嶺の花だった。
そんな存在の彼女がどうして僕と付き合ってくれているのか、今でもよくわかっていない。
「君は何者ですか?」
当時「彼女はすごい人らしい」としか知らなかった僕は、彼女にそんな風に声をかけたのだった。
今思えば相当失礼な質問だったが、彼女は表情を変えないまま答えた。
「別に」
彼女の答えはシンプルだった。
「普通の女子生徒よ」
その返事に僕はなんと返しただろう。多分「ふーん、まあそうだよね」くらいの適当な返事をした気がする。
自分から訊いておいて、もう少し興味持てと我ながら思う。
ともかくそれから折を見ては話しかけて、話をしていくうちに仲良くなって、一緒にいるのが楽しくなって、そして告白をして今に至るというわけだ。
告白もさほどロマンチックというわけではなかったし、僕のトークは高嶺の花に手が届くほど軽快なものではなかったはずだが。
彼女は僕のことが本当に好きなのだろうか。
ただその答えをはっきりさせられるほど、僕は勇者でもなかったのだった。
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