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君には言えない
利奈は僕のことが好きなのか。
その確かめようのない小さな不安は、毒のようにじわじわと着実に僕の心を蝕んでいた。
それは声をかけても返事が返ってこなかったとか、食べたいものが二人で違ったとか、やっぱり写真を撮らせてはくれなかったとか。そんな些細なきっかけでも。
たまたま聞こえなかっただけかもしれない。食事なんてその時の気分じゃないか。純粋に彼女は写真が嫌いなだけだろう。
分かっている。分かっていた。
けれど僕の頭からその問いが消えることは無かった。
それは。
それは僕のことがもう好きじゃないからじゃないのか。
もしかすると、最初から――?
「なにか匂うわね」
「えっ、香水はつけてないけど」
不安が募り、つまり僕がもっとカッコいい男になれば惚れ直されるんじゃないかという結論の末、親父の香水を手に取ったところまではいったけど。
「何を言ってるの。私が言ってるのは名探偵的なアレよ」
利奈は僕の顔を覗き込む。
「何か隠してるでしょう」
彼女のその眼は名探偵というよりも猛禽類といったほうが正しいと思えるくらい鋭い。
「いや、何でもないよ」
僕がそう答えると、ふーん、と利奈は唇を尖らせた。
「私はあなたのことが好きだけど、あなたは私のことが好き?」
その唐突な言葉に、僕はすぐに反応することができなかった。
「……え、なんで急に」
「気になったからよ」
「もしかしてテレパシー?」
「また何を言ってるの。私が言ってるのはデートの度に彼氏が時折暗い表情を見せてくるから何だか不安になってきた彼女的なアレよ」
利奈はまた僕の顔を覗き込んで。
答えて、と言った。
「……そりゃ好きだよ」
「どこが好き?」
「いやどこがって」
「言えないの? 私は言えるわよ。じゃあいいわ、私が先に答えてあげる」
彼女は腕を組んで僕の正面に立った。
「――最初からよ」
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