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あなたには聞こえない
「最初からそうだった」
彼女は言った。
「私は昔からとにかくレッテルを貼られがちだった。いい評判も悪い噂話も、とにかく色々と周りから"設定"されることが多かったの」
そりゃそうだろうな。容姿端麗、頭脳明晰、冷静沈着とくれば、あまりにも目立つ存在だ。
そして高校生というのは、他人を何かのカテゴリに入れなければ不安で押し潰されてしまう弱い生き物なのだ。
「そうして良い話も悪い話も飛び交って、人は私から離れていった。片や畏れ多い、片や恐ろしい、ってね。私自身、愛想がいいほうではないから仕方ないといえば仕方ないけれど。私に話しかけてくれる人はほとんどいなくなった」
言って彼女は綺麗に微笑む。
「私はみんなと普通に話がしたかったのにね」
彼女の声は震えない。
でも、と彼女は続けて言った。
「あなたは、あなただけは最初から私を真っ直ぐに見てくれていた。私を知ろうとしてくれた」
評判とか噂話とか、そういうものは耳に届いていたはずなのに。
「あの時、周りの声を全部無視して、あなたは私に直接聞いてくれたのよ」
――君は何者ですか?
「あなたは本物の私を知ろうとしてくれた。だから私も初めて、本物の私を見せることができたの。別に何者でもない、普通の女子生徒なんだって」
その時から、と彼女は続けた。
「あなたにはこれからずっと、レッテルも何もかも全部剥がして、何も通さず私を見ていてほしいと思ったのよ」
そう言って。
彼女は花のように、にこりと笑った。
僕はそれを見て思い出す。
「さあ、次はあなたの番」
利奈に促され、僕は口を開く。
「……本当に失礼な話なんだけど」
彼女は確かに可愛い。
彼女は確かに頭が良くて。
彼女は確かにクールだった。
でも僕は教室で一人ポツンと座っている彼女を見て思ったのだ。
――なんだ、普通の女の子じゃんって。
だから知りたくなった。
彼女は一体どんな人なんだろう。
だから話しかけた。
彼女が笑ったら、どんな顔になるんだろう。
「そんなに可愛く笑うとは思わなかったんだ」
それにやられて、僕は彼女に告白したんだっけ。
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