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勇者
最後の力を振り絞った勇者の一撃も目の前に迫るモンスターを倒すには至らなかった。
地面に倒れ込み、立ち上がろうともがく勇者にモンスターが牙を立てる。
鋭い痛みが走るが、もはや勇者に振り払う力は残されていない。
はらわたを引きずり出され貪り食われる痛みが、やがて遠のいていくのを勇者は感じた。
そして勇者は息絶えた。
「勇者よ、目覚めるのだ」
勇者が目を開けるとそこは城の玉座の間。
鏡のように磨き上げられた大理石の床に自分が横たわっていることに勇者は気がつく。
勇者はやがてのろのろと立ち上がると、玉座から見下ろす王を焦点の合わない目でみつめた。
次第に意識がはっきりしてくる。
ぼやけていた視界がはっきりしてきて、王様が何かを言っているのが聞こえてくる。
「勇者よ、死んでしまうとは何事だ!」
勇者はゆっくり周囲を見回し、そして目じりから涙をあふれさせながら、狂ったように笑い始めた。
「勇者よ、いったいどうしたのだ……!?」
王に促された近衛隊長が勇者の肩をつかみ揺さぶるとその瞬間、勇者はいつ抜いたのか誰にも分からない素早さで剣を抜き、近衛隊長の腕を切り飛ばしていた。
宙を舞う近衛隊長の腕が広間に血をまき散らし、叫びながら倒れた近衛隊長の周囲には血の海ができた。
大臣が叫ぶ。
「勇者が乱心したぞ!王を守れ!やつを討ち取れ!」
近衛兵たちの槍が一斉に勇者を貫く。
勇者は口から血を吐きながら叫んだ。
「お前もいっぺん、モンスターに殺されてみろ!」
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