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触れ合える奇跡
ある夜、仕事を終えて帰宅すると、ヒカリはキャリーバックにルパンを入れて俺を待っていた。
「おじいちゃんが旅立つ。みんな一緒にお別れに行きましょう。」
「そんなに弱ってたのか・・・知らなかった。」
俺は心の準備がなかった。ヒカリはマリア像のような慈愛に満ちた眼差しで俺を見て言った。
「自然な流れです。誰も皆、流れは止められない。宇宙の広大な流れの中で私たちは偶然に触れ合った。それは奇跡。触れ合える瞬間こそ奇跡で、流れ去ることは自然なこと。そうでしょう?」
「ヒカリ・・・」
ヒカリが流れ去ってしまうような気がして胸が熱くなる。
介護施設に向かうタクシーの後部座席で、俺はだらしなくメソメソした。ヒカリは囁くように俺を励ました。
「タケシさん。最近、働き過ぎですから。あんまり無理すると体壊すわ。私たちのことも考えて。タケシさんが倒れたら私たちどうなっちゃうの?ねえ、ルパン!」
「そうだな。こんな俺でも一家の大黒柱なんだな・・・フフフッ」
高齢のタクシー運転手は会話を聞いていたらしく
「羨ましいです。僕なんか死んでも誰一人寂しがる家族もいない。いいなぁ。そういう会話聞いただけで人間っていいなぁと思います。」
と言った。ヒカリは
「そうですね。人間っていいですよね!」
と相槌を打った。俺はヒカリと顔を見合わせてハハハッと笑った。
キャリーバッグの中のルパンが『ニャーオゥー!』と反感を示すように鳴いた。もう一度、みんなで笑った。
じいちゃんは、ルパンとルシアを両脇に抱え幸せそうに死んだ。
完
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