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「慎二クン、同時なんてことは有り得ないと思うよ?」
「いやいや、あるだろ」
「いや、ないって! だって考えてみてよ? わたしが誰かと付き合った〇時〇分丁度に、慎二も誰かと付き合うってこと? そんな奇跡みたいなこと絶対にありえない!」
よほど自信があるのだろう、晶子は「絶対にありえない」を連呼する。
俺はそれに「ハイハイ」と適当に相槌を打ち、ため息をついた。白い息が登っていくその先を目で追うと、澄んだ星空に大きな丸い月が、ぷかりと浮かんでいた。金色のそれは俺の事を笑っているように見える。
「暖房! 暖房!」
目の前に現れたコンビニ目指し、晶子がふいに駆けていった。きっと俺が追いつく頃には、また安い缶チューハイを手にしていることだろう。
来年の今頃は、晶子の言った「高い日本酒」というやつを二人で飲めるといいのだけれど。そのためにはなんとしても晶子の勝ちを防がなければならない。
「同時に恋人ができる方法は、もう一つあるんだけどな」
俺の独り言は夜の闇に消えていく。
あの鈍感女のために「今夜は月が綺麗ですね」くらいは、言ってみてもいいのかもしれない。
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