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俺の目をじっと覗き込んできたので、それを避けるように視線を下ろした。
週三くらいで目にする白いTシャツは首元がよれ、ジーンズは膝が擦り切れそうになっている。その上、格好だけならまだしも、晶子は化粧っ気すらなかった。切れ長の目に日本人には珍しいそばかす。耳下で切り揃えられたショートヘアは、いつもどこかしら跳ねている。女らしさはまるで感じられない。
「まずはその格好を変えてみたらいいんじゃないか」
「つまり?」
晶子の眉がぴくりと動く。俺はこれ以上殴られないよう、慎重に言葉を選んだ。
「だからほら……ワンピースとか、ヒールの靴とか……男ウケ? ってやつを……――」
考えたらどうだろう? と言い終わる前に、晶子の口から盛大なため息が漏れる。
「慎二はわかってない。自分を偽ってどうするの? いつかボロが出るに決まってるじゃない」
「それは……頑張り次第だろ」
「あのね、わたしはそのままのわたしを好きになってほしいの。絶対いるはずだもん。『そのままの君が素敵だよ』って人が」
どこぞの乙女ゲームのキャラクターのような歯の浮くセリフに、聞いているこちらが恥ずかしくなった。今どきそんなクサイセリフを吐く男、いるはずがない。
「白Tにジーンズのラフさがいいよね。塗りたくってない自然な顔が好印象。切れ長の瞳が色っぽい。寝癖はギャップがあって可愛いらしい」
「は?」
「…………とか、そういうこと?」
晶子はスルメイカ同様、俺のセリフをじっくり噛み締めているようだった。ふーん、とだけ呟いたのだが、きっとこれは許容範囲だったという意味だろう。
突っ込まれないことが逆に恥ずかしくなって、おもむろに机の上に手をやった。しかし生憎、缶は全て空になってしまったようだ。
「……コンビニ行ってくるわ」
「あ、わたしも行くー」
俺たちは揃って、そこらへんに放っておいたコートを手に取った。
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