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答えはずっとシンプルで
「彼氏が欲しいんだけど」
そう言い放った当の本人は、俺の目の前で胡座をかき、左手にスルメイカ、右手に缶ビールという何とも素敵な格好をしている。
「いやぁ……無理じゃね?」
至極真っ当な返事をすると、オッサン女子、もとい木村晶子は、じっとりと俺を睨んだ。
「は? なんでよ?」
「なんでよって……」
そんなの見ればわかるだろ? という視線を投げかけると、晶子は俺の左脇腹をグーで殴った。女の癖にわりと強い。
彼女は俺を殴っただけでは飽き足らず、勢いよく手持ちのビールを飲み干すと、間髪入れずに新しい缶に手を伸ばした。酒豪め。
この日俺たちが飲んだ酒は、缶ビールと缶チューハイ合わせて十缶をゆうに超えていた。ただしそのほとんどが晶子の飲んだものなのだが。
たまにはいい酒飲みてぇなとため息をつくが、俺たちみたいな関係性にはむしろ安い酒が丁度いいのかもしれないと思い直した。
「せめて可愛い名前だったらよかったのに」
「……なんだよ、まだその話か」
「だから言ったでしょ? 彼氏が欲しいんだってば!」
スルメイカを豪快に噛みちぎる様子は、どう見ても恋をしたい乙女のそれではない。
これだから酔っ払いは、と呆れると共に、彼女の性格を考慮し、この話が長くなるだろうと観念した。
「ハイハイ。名前がなんだって?」
「だからさぁ、アキコよりサクラとかモエの方が女らしいでしょ? そんな名前だったら今頃彼氏の一人や二人いたのかなって」
「いろいろ突っ込みたくなるが……とりあえずおまえに彼氏がいないのは、名前のせいじゃないと思うぞ」
「じゃあなに?」
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