真実の行方

3/9
前へ
/9ページ
次へ
園内入口を抜け正面におとぎ話に出てくる城が見えてくると歓喜の声を上げてはしゃぎ出す麻美。麻美が時々見せる幼稚な言動に呆れる。出会った当初は感情表現が上手い女という素直な印象が、最近は呆れてものも言えなくなっている。麻美に否定の言葉を向けるつもりは毛頭ない。未熟な精神だった学生時分と違い他人の目が気になり出した成人を迎えた今の俺には合わなくなってきただけの事。 城の前には多くの客が城の前でスマホ片手に写真を撮っている。麻美が記念に一緒に撮ろうと言い出し、渋々俺は頷いた。互いに顔を寄せ合い麻美のスマホでツーショットを撮る。麻美は撮った写真を確認すると満足した表情を浮かべた。女子は何でも写真に撮りたがり記念事が好きなのだとつくづく思った。 顔を上げ次の行き先を麻美と話している時だった。視界の片隅に違和感を覚え、瞬時にそれを捉えた。彼女だった。あの彼女が少し離れた所に立っていて彼女の隣には長身で筋骨隆々の男性に笑顔を向けて何やら話している。男性が彼女に向き合っているので男性の顔が確認出来ない。彼女がその相手に向けている楽しげな表情を初めて見た。 その瞬間、沸き起こってくる衝動を押さえられなかった。スマホを取り出しレンズを城に向ける。一見すると城を撮っているように見えるかもしれない。拡大を繰り返しバランスを整えた彼女を画面に捉えてた。俺が突然写真を撮り出した事に小言を並べる麻美を無視して5回画面をタップした。画面に写る彼女は豊かな表情を浮かべている。だが最後の1枚は隣の男が振り返り顔を捉えていた。30歳前半くらいで肌黒くボディビルダーのような男。 「……彼氏いるのかよ」 しかもあんな屈強な男が彼女は好みなのか。細身の俺が敵う訳ないじゃないか。勝手にフラれた気分に陥り、やがて頭に血が上り出した。麻美が怪訝そうに視線を向けてくる。何か言いたそうな表情を浮かべているが気にも留めずに先を歩き出した。興醒めした今の俺にはこれから過ごす麻美との時間は一層退屈な時間になりそうだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加