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数日もすれば世間の目も含め他に興味が移るはずだ。日々事件や事故は起きる世の中。案の定、後日仕事前に訪れたが閑散としていた。店に着くと今日も工藤は仕事を休んでいた。以前オーナーに尋ねたがどうやら工藤と連絡が取れずにいるらしい。2週間もいやしなかった、根性無しめ。おかげで俺の仕事量が増すだけだ。
仕事を終えた後に再びマンションを訪れた。エントランス付近にある小さな公園で彼女の姿を待つ。正午を過ぎた頃には空腹と睡魔が襲い出したので自宅に戻って仮眠を取り、起きてまた仕事に向かう前に訪れ時間になると店に向かう。そして翌朝方に彼女らしき女性が現れた。つば広の帽子を目深に被っているが俺にはわかる。エントランスに向かって足早に歩く彼女に背後から近づき声をかけた。
「あの……大丈夫ですか?」
振り返った彼女の顔は頬がこけ生気を感じない。驚いた様子で凝視する彼女に「これ良かったら……」と彼女が毎週店で買う商品が入ったレジ袋を差し出した。手ぶらで会うなんて野暮な事はしない。だが彼女は一向に受け取らなかった。
「あなたが……あなたなの?」
「……えっ?」
「あなたなんでしょ? いつもいつも私につきまとって一体何なのよ? いい加減にしてよ! 警察呼ぶわ、帰ってよ、帰って!」
逃げるようにエントランスに消えていく彼女に呆気を取られた。何が起きたのか理解が追い付かない。すっきりしないまま家路についたが、自宅に着いてもまだ考えが続いていた。彼女の俺に向けた目は明らかに敵意と怯えがはらんでいた。だが予想以上に体が疲弊されていたようでいつの間にか眠りについてしまった。
数日前のようにスマホの振動音と着信音で起こされた俺は、これまた数日前のように床を這いながらテーブルに置かれたスマホを手にとった。電話の主も再びオーナーでボーリングで言うところのターキーだった。
「話しがあるんだけど店に来れないかな?」
「明日じゃ駄目ですか? ちょうど寝ていた所なので」俺が言い切るとオーナーは一息つき「さっき刑事が来たんだ」と声を落としながらもはっきりとした口調で話した。刑事が? もしかして本当に彼女が通報を? ちょっと待ってくれ。謂れのない事実を伝えようと口を開きかけた時だった。
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