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真実の行方
「……来た」
テレビに写し出されている監視カメラの映像をバックヤードで確認すると店内に戻り、レジカウンターの前に立つ。店内には彼女以外に雑誌を立ち読みしている中年男性が1人だけ。ターゲットである彼女は陳列する商品棚を一通り物色すると、やがて俺の正面に立ってカウンターに商品籠を置いた。
「お預かりします……あとは24番ですよね?」
背後にある煙草が陳列されている棚に手を伸ばす。彼女は決まってマルボロのメンソールを2箱買っていく。
「はい……ありがとうございます」
彼女の答えが返ってくる前に俺の左手は煙草を掴んでいた。
彼女が購入する商品はいつも同じ物だった。缶チューハイが4本とつまみが数種類。ドリップ式のコーヒー。彼女は決まって毎週火曜日の深夜に店を訪れる。濃い目の化粧に服装はラフな格好。独り身なのだろうか? 仕事は水商売か? 商品をスキャンをしながら彼女への空想はいつも尽きない。商品をレジ袋に入れて彼女に差し出す。会計を済ませ釣り銭を渡した時、彼女が差し出した右手が俺の左手に触れた。初めて彼女に触れた。
「ありがとうございました」
彼女がレジ袋を受けとると軽い会釈をして店を出ていった。俺は彼女を見送り見えなくなると心の中で大きくガッツポーズをした。
要件は済んだ。
今日も彼女に会えた事で満足した俺は、店外にあるダストボックスの中身をゴミ袋に回収している工藤に「あとのレジはお願いします」と伝えた。工藤の返事を待たずに踵を返しバックヤードに戻った俺は仮眠をとり始めた。
深夜のコンビニはいつも閑散としている。あとは工藤1人に任せて問題ない。3日前に入った後輩だが俺より10歳年上。加えて無口で愛想がなく、何を考えているのかわからない不気味な男。必要以上に話す事もなく次第に工藤と一定の距離をとり始めた。工藤は以前にもコンビニに勤めていたようで仕事の要領を得ていて黙々とこなす。俺の範疇の仕事まで率先してこなすから今日も工藤 に甘える事にした。パイプ椅子に腰を下ろし瞳を閉じると彼女の顔が瞼の裏に写し出される。
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