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4:「何でブリ?」
プルルルル……。
プルルルル……。
プルルルル……。
プルルルル……。
スワイプ。
A「は」
B「はよ出ろやババしとんのか」
A「その言い草はないな」
B「いやん!」
A「赤い電話のマークターップ!」
……。
……プルルルル。
……プルルルル。
……プルルルル。
……プルルルル。
スワイプ。
B「ほんまにごめん」
A「反省したんか?」
B「超してる」
A「愛してるみたいに言うなや」
B「ババしてる?」
A「反省してへんやんけ!」
B「ガミガミ言いなや~も~、ええ若いもんがぁ、カリカリカリカリ~、ケンケンケンケーン、言いなぁ~もう~、お母ちゃん耳キーーンなるわぁ~」
A「そこまでデカい声出してないやろ夜やのに」
B「ええんかあ? お母ちゃんエリエール病なんでえ?」
A「エリ…エール?(メニエールか?) それはつまりどういう病気なん。どういう症状に苛まれるのか説明してみて?」
B「ふわりとした肌触りで業界の顔として君臨し、多様性と可能性に満ち溢れたその姿はまさに神々の戯れの如きティシュー」
A「じゃあティシューやんそれはもうただの。病気どこいってん。ティシューて言い切ってもうてるやん」
B「あのー……そんな鼻セレブな僕がね、ちょっとばかし思う所あって」
A「どっちどっち?エリエール?鼻セレブ?どっち?」
B「ほな、僕としても彼らに揉めてもらうのは不本意やから、ここは公平に間を取ってハナノアということで」
A「それはお前もうティシューですらないのよ。鼻うがいに用いる生理食塩水というやつや。……ははあん、さてはお前何の用事もないくせに電話かけて来てるな?」
B「いや、あんねん。スタップ細胞はないけど、俺には熱い思いがあるねん」
A「しつこいぞハゲ。米粒に嫌われろ」
B「おい、呪いみたいな突っ込みやめろ。パンしか食われへんようなったらどうすんねん」
A「パンを食えよ」
B「……そうやな」
A「ええんかい」
B「ちょっと俺、映画通ブリたいなぁと思ってて、丁度」
A「なんの丁度やねん……え、ごめんもっかい言うて?」
B「映画通ブリ……ヒステリックブリーになりたいねん」
A「メンバー逮捕されて解散したバンドになりたいんか? わざわざ? ちゃうやん、映画通になりたいんやろ?」
B「ブリたいねん」
A「なんでまたニワカを目指そうと思うたんや。ほんまもんの映画通を目指せよ」
B「無理やん今からでは、お前に勝たれへんやん」
A「いやいやいやいやいや、通ぶってるやつにこそ負ける気せえへんで」
B「だから勝負しようなんて思うてないねん、映画の知識では。どれだけブれるか、そこにウェイトを置いてるわけ、勝敗の、俺は」
A「変な倒置法やめろやっ。電話では絶対あかんねん、会話の行く末を見失いかけたわ」
B「ごめん」
A「ツッコミを用意でけへんのはちょっとした恐怖やで?」
B「ごめんごめん、だけどこれだけは言わして」
A「……」
B「全米は泣いても、俺は泣いてない」
A「それは皆が思ってるやつ!!!!」
B「全米が泣いた、でも俺は笑った」
A「サイコパスッ!!!!」
B「うーーーるっ、さ~~~……」
A「ごめんごめん。お前の箸にも棒にもかからん、映画通ぶってるのかもよう分からん台詞に全力で突っ込んでしもたわ」
B「どうや、俺のブリは。今のがブリや」
A「いやいや、いきなりやったから思わず、71年スピルバーグの出世作『激突!』並みの突っ込みをかましてしもたけど、実際お前のブリは大分浅いで」
B「本気の通を見せつけてくるな!」
A「なんでやねん、どないしてほしいねん、咄嗟にしては俺頑張ったやん。というかお前、映画に触れてすらないやんけ。ただただ古式ゆかしい伝統のCM芸をイジっただけや」
B「ホンマもんはいらんねん。何? 71年? もてあますわそんなコアな知識。なんかようあるやんか。俺はただ『好きな映画はなんですかトーク』で気の利いたタイトルをばしっと言いたいワケよ。おおお~~、言われる奴をどんどんかましていきたいワケ。でも俺はただの一本もその映画を見た事はないワケ」
A「それただのウソつきやん。ただのワケワケ詐欺やん」
B「そうは言うても実際にやで?想像してみ?映画の話になってよ、例えば『トレマーズ』おもろいよねえって話になったとするやん」
A「うん」
B「そん時お前、こいつホンマに見たんかあ?って思う?」
A「思う」
B「えええええええええええッ!!??」
A「思うやろ普通。逆になんで思わへんと信じこんでるんや。映画の話しとんやろ?タイトルだけ言うて内容に触れへん奴なんかトラウマなるくらい突っ込んで聞いてくわ。まずは入りとして、あの主人公の若い方、別の映画も良かったっすよねえ? や」
B「お? お、おお」
A「あのー、なんでしたっけねえ、あのー、変な薬飲んでイタズラしよるやつ」
B「……『マーシーの 禁断!お嬢様学園危機イッパツ』?」
A「!!!!!(咽る)」
B「……正解?」
A「なんでやねん!『トレマーズ』に田代まさし出てへんやろ!変な薬に引っ張られすぎやお前、意表突かれすぎて俺が危機イッパツやわ」
B「ええー、なんやったっけ?」
A「『インビジブル』な、透明人間なるやつや。というかお前、ケヴィン・ベーコンは分かるよな?」
B「お前なめんよ?ベーコンくらいは知ってるよ、世代やもん」
A「世代ちゃうわ」
B「あれやん、『フラッシュダンス』やろ?」
A「おしい!それは同じ時期にヒットしたダンスムービーやけど主人公が女や! ケヴィン・ベーコンは『フットルース』! ……てかお前さっきからちょいちょいマニアックやねん。今の子ら『トレマーズ』も『フラッシュダンス』も知らん思うで。十分映画通でええと思うぞ。俺以外誰も突っ込まんて」
B「阿保抜かせ、その場にお前がおったらアウトやんけ。お前のニヤニヤを横目で見ながら俺はどんな顔をしたらええねん、道産子ばりに頬っぺた真っ赤っ赤や」
A「お前に道産子の何がわかんねん。そんなもん、そん時はお前お得意の勢いで乗り切ったらええやん」
B「勢いで乗り切った先に何があんねん。そんなピーコみたいなポジションに辿り着こうとしてないねん」
A「お前にピーコの何が分かんねん。しかも、おすぎや。映画はおすぎ。ピーコはファッションの方」
B「でも例えばやで?仮にお前なら、好きな映画何って聞かれてなんて答える?」
A「それはマジな方向で?」
B「お前の頭はブリ大根か。何回言わすねん、通ブリたいねん、俺は!」
A「お前の中でどう違うねん、通と通ブリは!?」
B「分かった、分かった、ほな一回聞いてみよう。お前のマジで好きな映画はなんなん?言うてみ?」
A「えー。なんやろ、一本にはよう決められんなあ」
B「ウザッ!!映画好きのそういうところが嫌い!!」
A「聞いといてなんやねんその態度は」
B「聞いても何も答えてないやんっ。そんな小芝居いらんねん。ほんまは一番好きな映画くらいとうの昔に決めてあるけど、めちゃめちゃ本数見てますねーん、いうアピールする為にはちょっとくらい迷ったフリせんと格好つかへんもんなあ、みたいな小芝居いらんねん!」
A「堂々とニワカ宣言するような奴が偉そうに言うなよ。 ほな、そう言うお前はどうやねん。通ブリたいと抜かすお前さんはほんまは何の映画が好きなんでっしゃろーのう?」
B「……言うたろうやないの」
A「張り切ってどぉぞーー」
B「……アキラ」
A「へ?」
B「『AKIRA』」
A「アニメッ!!?? ここへ来てまさかの!?」
B「……」
A「……いや、ええと思うで?大友克洋な、そういうたら俺も好きやで、漫画全巻持ってるし、うん。80年代であのクオリティと未来予知かましたような細かい設定は凄いよなあ、うん。うん」
B「……」
A「……いやだってさぁ。さっきまですごい、実は古い映画も見とって、実は映画好きやったーみたいなフラグ立ててたやん。意外とそっち系のオチを用意してて俺を驚かせてくれんのかなーって。今日はそういうタイプのオチなんかなーって。したらまかさのアニメ映画て。どうせならプリキュアくらい言うてくれよ、変にマジやんけ」
B「モウ、エエワ…」
A「あー!悪かった悪かった!これは俺の失態やな、俺の先入観がお前の真剣な答えを茶化してしまったな、これは俺が悪かった」
B「……ほんまにそう思ってる?」
A「思ってる思ってる」
B「悪いと思てる?」
A「思てるよー?」
B「ほなお前が思う、これを言うといたら、お、通だね!って喜ばれる映画のタイトルを言うてみて?」
A「……」
B「マジなやつはあかんで?」
A「……(お前さっきマジな奴聞いたやんけ、混乱するわ)」
B「あかんでえ、マジなやつ言うて、え、それ何?って現場を激サムに追い込むようなハイソサエティなイタリアンシネマとか放り込んでくるなよー?」
A「……(イ、イタリアンシネマ? なにそれなんのこと? 『ニューシネマ・パラダイス』のこと言いたいんか?)」
B「あと変に官能系もやめや?『紅いコーリャン』とか『薔薇の名前』とか『エンティティー 霊体』とかもあかんで?」
A「めちゃめちゃ詳しいやん! え、何!? 引く! 怖いお前! 何!? 俺の精神状態ズタボロにする気!?」
B「いやいや、単純にエッチなシーン多めな映画は好んで見るやん?」
A「ゲスいッ!!それはそれで引く!!」
B「早よ言えや、答えを!稼いだってんねん、時間を! 絞ったってんねん、知恵を!」
A「やめろ!倒置法!」
B「お前もや! っつーかもお~~、はよ決めてくれって~~~~」
A「なんでお前が飽きて来てんねん、腹の立つー。……あー、ほな、『ミスト』とかでええんちゃう? 流行の新しい映画ではないし、とは言えスティーブン・キングやし、オチが秀逸で今でもたまに議論されてる映画やから、見てる人間にも見てない人間にも話題を投げかけられると思うわ」
B「……ほー。ええやんそれ、ええチョイス違う?」
A「知ってる?『ミスト』」
B「知らん」
A「あらすじ言うといたろか?」
B「いらん、どうせ内容の話なんかせえへもん」
A「浅っさいなー。どんな場面で映画の話するつもりやねん。たまたま立ちションで横に並んだ時にする30秒程の便所トーク専用か?」
B「ほっとけ。あー、でもなぁ」
A「なんやねん」
B「俺の方から一個候補があって、それがアキオん中でどういう判断になるか聞きたかってん」
A「最初からそれを言えよ。なんやってん今までの会話は」
B「聞いてくれる?」
A「何やねんな」
B「……『ピアノレッスン』」
A「ピアノレッスンて、あれか。マイケル・ナイマンのテーマソングが大ヒットしたあれか」
B「そう」
A「お前、やっぱり結構見てるやん。びっくりしたわー、だいぶ通好みな映画やと思うでぇ。……けどなんでお前」
B「結構エッチやん?」
A「ですよねえ!!!!!」
B「うるさいって突っ込みのボリュームがぁ~」
A「もうお前とは映画の話せえへん!」
B「分かった分かった。ほな、ごきげんよう」
A「……」
B「サヨナラ、サヨナラ、……」
A「……サヨナラ!お前絶対映画好きやんけ今世の中で淀川長治の物真似するん日本で多分お前だけや!!」
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