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鈴が董旻に出会ったのは、この奥御殿へとやって来て程ない頃であった。
兄を訪ねてやって来た董旻に対応したのが最初である。
その時は漠然と、礼儀正しく、時々面白い喋り方をする人だなぁと思った位であった。
しかし、その後使用人たちの溜へと戻った時にとある噂を耳にした。
それは“悪人・董叔穎”という異名についてである。董旻の兄である董卓の異名である“悪鬼”と揃いの感じでそう呼ばれているのだろうと思ったが、話を聞いていると実はそうではないらしい。
董旻は元々何進の部下であった。
何進が十常侍によって殺害されると、同じく何進の部下であった袁紹と共に宦官らを抹殺。
その後、何進の殺害を画策したとの嫌疑を何進の異母弟である何苗にかけて切り捨てる。
こうして朝廷内で権力を握っていた十常侍、何進及びその一族を亡き者にした董旻は万全の体制で兄を迎えた。
董卓が都入りすると、弟はさっそく兄の妨げになるものを容赦なく排除し始める。
手始めに友人であった呉匡を追放し、次いで兄が廃した少帝とその母で、かつての主人である何進の妹の何皇后を暗殺……したとされる。
この兄・董卓の為にならどんな手段も犠牲も厭わない姿勢に人々は恐れてこう言った。
悪人・董叔穎、と。
そんな悪人に鈴が惚れてしまったのは些細な出来事がきっかけであった。
噂を聞いた後、鈴は相変わらず訪ねてくる董旻に壁を作って必要最低限の対応をするだけであった。
粗雑な対応をされるも、董旻は変わらず丁寧であり時には世間話をする。
冷たい態度をとる自分の方が悪人ではないかと思い始めた矢先、鈴はおつかい先で粗暴な男たちに囲まれてしまう。
姉から預かった金品を奪われてなるものかと抵抗を繰り返すも、腕を強引に引かれる。絶体絶命の事態に颯爽と現れ、男たちを簡単に伸してしまったのが董旻であった。
単純な話、鈴はこれで惚れてしまった。
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