ブルーバード

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その後、愛は江東まで連れてきてくれた親切な行商の主人の息子と夫婦になって大陸中を回った。義父母は愛を実の娘の様に可愛がり、夫も彼女を深く愛した。愛もまた義父母を本当の親と慕い、夫を愛し、尊敬して幸せな日々を送った。 親を捨てるという最大の裏切りを犯してしまい帰郷など出来ずにいた彼女だったが、風の噂でこんな話しを聞いた。 孫権が自ら10万の大軍を率いて黄祖の討伐を決行。黄祖も全軍をもって迎え撃つが惨敗。黄祖自身も荊州に逃げようとした所を孫権軍のさる優将に討ち取られてしまった。しかし、孫権はせっかく黄祖から奪ったその土地を劉表をおびき寄せる餌とする為に捨てて引き上げたらしい。 そんな話しを聞いて愛は実の両親の安否が気にはなったが、今さら戻れる立場ではないので心の中で無事であることを祈るばかりだった。 そしてこれは噂にすらなっていない全くの余談だが、孫権陣営の中にこのおびき寄せ作戦に苦言を呈した者がいた。しかしその者は帰城前に辺りを散策した後には作戦に賛同したという。その心変わりの訳を孫権が訊ねてみると、その者は言った。 「昔、この土地に住んでいた時に鳥を飼っていたのです。もしかしたらまだ俺を待っているかと思ったのですが、どうやら大空に帰ったみたいでした。あの鳥の囀りおかげで孫権様の元へと向かう決心がついたのですが、仕方ありません。あれはいつも飛びたそうな目をしていましたから。きっと俺などより上手に、自由に飛ぶことでしょう」 孫権が風切羽を切っておかないからだと笑うと、その者は眉尻を下げ悲しそうな笑みを浮かべて、そうですねと呟いたのだった。 【終】
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