密室の外の事件は秘密!

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密室の外の事件は秘密!

「……迷谷さん、ちょっと地下の様子を見てくる」 「地下の?どうして?」  僕は草野がどこかへ行ったこと、弓彦が外を見に行ったことをかいつまんで話した。 「そっか。いったんエレベーターで地下に行けるとわかったら、滞在中に一度は覗いてみたくなっても不思議はないわね。……いいわ、私も一緒に行く」  僕は「わかった、行こう」と返すと、みづきと共にリビングを出てエレベーターへと向かった。乗り場に着いて階数表示を見ると、思った通りケージが地下で止まっていた。 「やっぱり。誰かが地下にいることは間違いない」  僕らはボタンを押してケージを一階に呼ぶと、鉄柵を開けて中に乗り込んだ。花の形の突起を捻ると、重々しい音と共にケージが下降を始めた。  やがてずしんという衝撃を靴底に感じ、ケージの動きが止まった。小さなホールに出ると、僕は右側のドアを押し開いた。 「ここ……何の部屋?」  僕の肩越しに中を覗き込んだみづきが、問いを放った。 「ここは『しかばね』の……村長の息子の部屋だよ」  僕が答えると、みづきは目を丸くしながら中に足を踏み入れた。前回、ここに来たときは隣の寝室に住人がいたが、今回はどうだろう。僕が奥の扉に近づき、ドアに耳を押し当てようとしたその時だった。いきなりエレベーター側の扉が閉じられ、施錠された。 「……なんだ?」 「ちょっと、閉じ込める気?」  咄嗟にみづきがドアノブに飛びつき、力任せに回そうと試みた。だが、ドアノブはびくともせず、僕は向こう側にいる何者かの悪意を強く感じた。 「どうしよう……携帯で母屋に助けを呼べないかな」  みづきが青ざめた顔で僕に意見を求めた、その時だった。ドア越しに「うおお」という呻き声と、人が倒れるような音が伝わってきた。僕らは顔を見あわせ、再びドアノブと格闘を始めた。回ることを期待しながらドアノブを左右に動かし続けていると、やがてがちゃりという何かが外れる音がして、ドアが向こうから押し開かれた。 「――大丈夫か?」  開いたドアの隙間から顔を出したのは、弓彦だった。 「神楽先生……」 「君たちも地下に来ていたのか。……この部屋でいったい何をしていたんだい?」 「実は突然、外から鍵をかけられて……そういえば草野先生は?」  僕がいきさつを説明しつつ草野の消息を尋ねると、弓彦は身を引き無言で背後を示した。 「……あっ」  エレベ―ターホールに移動した僕らは、奥の地下通路を覗き込んではっとした。 「僕が地下についた時は、すでにああだった。安藤さんを呼びにいった後、君たちが中にいることに気づいたんだ」  弓彦の目線の先には、通路の床にへたりこんで宙を見つめている草野と、何か話しかけながら抱き起こそうとしている安藤の姿があった。 「草野先生……なにがあったんだろう」  僕が呟くと、弓彦が「あの表情に見覚えはないかい?どうやら草野先生も『しかばね』の仲間になってしまったようだ」と口元をゆがめながら言った。  僕は弓彦が口にした事実をすぐには呑みこめず、えっと叫んでその場に立ち尽くした。 「草野さんが『しかばね』……」  通路の端に呆然とたたずむ僕とみづきを尻目に、弓彦は草野の救護を手助けすべく安藤の方へ向かっていった。草野と安藤たちが先にエレベーターに乗り込んだのを届けた僕とみづきは、揺れ動く気持ちを持て余しながらぼんやりとケージが戻ってくるのを待った。 「……ついに半分になってしまった。僕も作品ができたらチェックアウトしたい気分だよ」 「そうね。最終日には誰もいなくて作品だけが残されてた、なんてこともあり得るかもね」  僕らはやってきたケージに乗り込むと、一切言葉を交わすことなく一階へと向かった。
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