2度めまして

1/1
102人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

2度めまして

アパレル会社との仕事は展示会や新店舗の立ち上げ以外にもカタログやムービー撮影、イベント開催など多種多様にある。 事前にブランドから渡されたスタイリング写真やコンセプトをもとに 私がイメージプランを作り 直が小道具や撮影場所などを決めていくのがNASの基本的な流れになっていて 今回は西山さんが営業担当をしている アーバンクルーズの看板ブランド 【Nouveaute normes】 のA/Wカタログ撮影について打ち合わせをしていた。 今期はライフスタイルをテーマにしているから 小道具を使えばイメージは出しやすくなるけれど Nnのように1シーズンのプレスアイテムが他ブランドに比べて多いと 空間やライディングもうまく使っていかないとワンパターンになってしまうので その兼ね合いを紙ベースだけで考えるのは難しく 私たちのプレゼン資料作りはいつも以上に細かく大変な作業になっていた。 朝から始めていたミーティングも次第にアイディアが底をつき出し 私と直はお互いの目が合うたびにため息をつくばかりでかなり煮詰まってしまっていた。 そんな空気感を察したのか ミーティングルームのドアを開けた先輩は 床にまで散らかっているスタイリング写真を見ながら 「今回はハデに打ち合わせやってんなぁ。」と笑い 机の上にある大きくバツが書かれた資料を手に取って 「SPAJIOの弁当頼んだ。美味しいご飯食べたら脳内のスイッチが入れ替わって、いい案が出たりするもんだから、一旦休憩しよう。」 と言ってくれた。 「食べる食べる!SPAJIOのステーキ弁当大好き!テンション上がるー。」 と浮かれ足で部屋を出ていく直を見ながら 『パターン数がいつもより多いのがやっぱりネックみたい。 撮影場所はスケジュールの都合上1ヶ所だし 当日の天気を当てにするわけにはいかないから最悪の事態も想定したりするとなかなか。』 と私は今の現状を先輩に報告した。 「やっぱり、SPAJIOは裏切らないねー。」 とご満悦な直をはじめ みんなで和気あいあいランチをしていると 先輩が思い出したかのように 「そうだ、愛と直。14時にアーバンクルーズへ行って。」 と言ってきた。 「え?打ち合わせが早まったの?」 と慌てる直に 「いや、そうじゃなくて。アーバンクルーズの他ブランドから仕事の依頼がきてて 顔合わせ、挨拶がしたいんだって。 打ち合わせも煮詰まってたみたいだし、ちょっとした気分転換にもなるかな?って思って、今日でいいですよってさっき返事しといたんだ。」 と言い先輩は簡単なブランド説明をはじめた NASから歩いて10分もかからない場所にあるアーバンクルーズ本社のフロントで 受付を済ませた私たちは 指定された会議室がある8階に向かった。 プレスルームがある7階とは違い重厚な雰囲気がある8階フロアに足を踏み入れると これから新しいことが始まるのだと感じ身が引き締まるような気分になった。 先輩からは 新しく携わるブランドが【Immeuble】という立ち上がってからまだ10年ほどの若いレーベルだと聞いていて 営業担当の三浦さんからは Nnのように高感度で上品なスタイルを提案する大人のブランドとは違い Immeubleは若々しく自由な感性を提案するリアルクローズがコンセプトになっているためMDではターゲット層を20代に設定していると説明を受けた。 だからプレス担当はアーバンクルーズ最年少と言われている26歳の柴崎さんで 程よく肩の力が抜けているけれど、雰囲気のどこかに心地よさを感じる抜け目のないおしゃれ感が 【Immeuble】そのもののような気がして 大袈裟だけど話を聞けば聞くほど このブランドは柴崎さんのために作られたのではないかと思うほどイメージがピッタリだった。 打合せの後に直から 前にShigeで西山さんから紹介された人が柴崎さんだったと聞いて 少し興味が湧いた。 だけどそれはあの時の印象と今日の柴崎さんが別人のように感じたからなだけで 恋愛フラグとかでは全然ない。 今まで仕事をしてきたプレスの人は同世代や年上の方が多かったから キャリアはもちろん仕事のレベルも高く 私にとっては常に学びの場になっていた。 だから年下というだけで 童顔の草食系おしゃれイケメンは仕事にたいする姿勢も軽やかなのだろうと勝手な思い込みを持ってしまっていて それがいい意味で壊れたから、柴崎さんという人物に少し興味を持ったのだと思う。 “なんだか楽しみな仕事になりそう”と漠然と思った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!