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「君は、いつもこんなお洒落なところで飲んでいるんですが?」 濃紅の暖簾を潜った先は、居酒屋という言葉の合わない小料理屋のような店だった。最近は家飲みが多く、なんとなく落ち着かない。 粗塗りの壁に目を走らせながら尋ねると、篠崎は口に運びかけたお猪口を戻した。 「もう、呼んでくれないんですか?」 「なにをです?」 「田嶋さんは意地悪だな、名前ですよ」 人の話を聞いていないような反応にムッとしたが、そこまで訊きたかった訳でもない。それよりも、不名誉な評価の方が気になった。 「意地悪をしているつもりはありませんよ」 酒を一口含み、箸をとって小鉢の煮物に手をつける。味の染みた高野豆腐を食むと、口一杯に出汁の香りが広がった。 「それなら、名前で呼んでください」 「呼べというなら呼びますが…呼ばされた名前で、君が満足できるとは思えない」 驚いたような顔を見返しながら告げる。彼の本心は、なんとなくわかっていた。
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