-1-

2/2
前へ
/20ページ
次へ
昔から要領の良い方ではなかった。人と同じことをするのに、人より多く時間がかかった。それを苦に思ったことはない。むしろ、 「祐くんは頑張り屋さんね」 そう言われることが嬉しかった。なんでも出来る優等生よりも、自分の方が優っている気がした。 「田嶋、頑張ってるな」 だが、この歳になれば言われ慣れた言葉が、大して褒め言葉でもないことに気がつく。それでも仕事にはプライドを持っているし、真面目にコツコツ取り組んでいるつもりだ。 絶対、周りに迷惑はかけない。 「庶務課の田嶋さんは、今日も残業ですか?」 不意に背後から掛かる爽やかな声。聞き馴染んでいることは全く本意ではないけれど、振り返らずとも誰か分かる。 「そういうあなたは、なんでまだ居るんです?営業の篠崎くん」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加