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「なんですか、あのコトって」
鞄を左手に持ち、引き出しに鍵を掛けて篠崎を振り返ると、悪戯っ子と言うには少し悪すぎる笑顔。そういう顔をされると、心当たりはないのに弱みを握られている気になる。
「言ったら切り札の意味がなくなっちゃうじゃないですか」
「どの道、私に選択肢はないわけですか」
「流石センパイ、話が早いですね」
「こんな時ばかり先輩呼びしないで下さい」
第一私は君の先輩じゃない、と言い掛けて篠崎の表情に言葉が詰まった。口元には笑みを浮かべながら、眉根は哀しげに顰められている。そんな表情で、今まで何人の女性に「ごめんなさい」と言わせてきたのだろう。
「田嶋さんはセンパイ呼びとか萌えない人なんですね。それともツンデレなの?」
そう軽口を叩く篠崎は、先ほどの悲愴が嘘のようにフワフワとしている。しかし、先程見たものを気の所為にすることは出来なかった。溜息をつき、右手で眼鏡を押し上げる。
「仕方ないですね」
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