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『不気味の星』が学校中に流行りだした。多分噂を聞いた連中がダウンロードして、何度も見たことで力を手に入れたんだろう。それから身を守るために、ほかの人も連鎖的に見ることになったに違いない。
学校はもう異様な空間だった。誰も互いの顔を見ようとはしない。誰もかれも、不気味で気持ち悪い。時々席を外してトイレで吐く人もいる。授業はろくに進まない。
清子は学校に来なくなった。そっちの方が賢いのかもしれない。もうまともな人はほとんど残っていない。
だんだん、不登校の人間が増えていく。清子の取り巻きも消えた。僕の次に『不気味の星』を使ったあのいじめられっ子も、いつの間にかいなくなったらしい。
僕はただそれを観察することしかできなかった。アプリはどんなに探しても見つからなかったし、戻す方法なんてなおさら分からない。僕だって彼らの同類なのだから。
清子から電話がかかってきたのは、そんな末期の頃。放課後で、僕はいつものように図書室にいた。そういえば、ずっと前に電話番号を教えたことがあると、その時思いだした。
『輝美が家に来る』
しばらく考えて、清子の取り巻きの一人だと気付いた。彼女も学校に来ていない。
仲間なのだから、別に家に訪れてもおかしくはないだろうと尋ねたが、清子は違うという。
『夜に来るの。ドアからじゃなく窓から』
「窓?いつも開けてるの?」
『開けてない。入れてない。でも声がする。光ってる』
光っている、と聞いた時、僕の背中がちりちりと逆立った。
「光るって、どんな色?」
『どんなって、分からない。汚い虹色みたいなかんじ。色がずっと変わってくの』
清子は不気味の星を見たことは無いはずだった。今も、その声に気持ち悪さはない。
「どこかに逃げるとか、できないの?」
『どこに逃げればいいのよ!ただでさえお母さん心配してるのに!』
清子は怒ったようだったけど、もう僕は怖いとも思わなかった。むしろいらつく。
「ずいぶん細かいこと言うんだね。いじめてたやつに電話はできるのにさ」
清子は黙った。怖がっていたのかもしれない。彼女からすれば僕だってバケモノだろう。
僕はため息をついた。もう友達とは思っていないけど、見捨てるのも気が引ける。
「とりあえず部屋の明かりは消さない方がいいね。あとは家にこもっていれば」
適当に安心させるようなことを話していると、スマホが震えた。
画面を見る。
星空が画面いっぱいに映し出されていた。そして極彩色の光が輝きだす。
『ねえ、スマホが光って』
「見るな!すぐに捨てろ!学校に来い!図書室にいる!」
叫びながらスマホを投げ捨てた。清子が指示に従ったかは分からない。暗くなるまであと少し時間があった。走れば間に合うはず。あとは、図書室にでも立てこもるしかない。
見回りの教師は来なかった。とっくに学校は崩壊している。とりあえず机や椅子を入り口集めておいた。役に立つかは分からないが、とにかく動いている方が気が楽だった。
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