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清子は日が沈む直前に来た。顔はかわいそうなほど真っ青だった。こんなやつでも憐れんでもらえるんだから美人は得だと、つまらないことを考える。
「久しぶり」
嫌味に清子は答えなかった。本当に怯えているらしい。ただ、積み上げられたバリケードを見て、少し安心したようだった。
「ここなら大丈夫?」
「さあ。でも君のとこのドアよりはましじゃないかな」
実際、五人がかりで入ろうとしてもまず無理だろう。図書室自体、それほど広くはない。入り口はすぐに雑多なもので埋まった。
清子も黙って手伝う。今までのワガママさは鳴りを潜めていた。ずいぶん物を運んだので、少し背伸びをして、天井を見上げる。
日は既に沈んでいる。とっくの昔に暗いはず。
天井が七色の光を反射して、明るく輝いていた。
「目を瞑れ!カーテンを閉めるぞ!」
あり得ないはずだった。図書室は二階にある。だが、輝きはいや増して瞼の裏を彩る。厚手のカーテンをひいた後も、ぼんやりと光る何ものかたちがうごめいていた。
清子は床にへたり込んでいる。その後ろで、僕が投げたスマホが震えた。
「きゃっ!」
腰が抜けたのか、清子がこちらにはいよってくる。端末は震え続けていた。極彩色の画面はどんどん光を強くする。
「おい」
女の声が、ドアの向こうから聞こえた。覚えがある。輝美のものだ。
「おい、清子。おめーのせいだぞ。おめーのせいだろ!どうしてくれんだよ!」
「知らないわよ!知らないあんたのことなんて!消えて!」
「おめーのせいだ!!見ろ!見ろお!!」
ミシミシとドアがきしむ。手で押しているような具合じゃない。万力で圧力をかけているみたいに、徐々に机が動いていく。光が漏れる。月のように明るい、色とりどりの光線が差してきた。
僕は思わず清子を見た。彼女は凍り付いたように変化する色を眺めている。
気持ち悪さは、感じない。
とっさに捨てたスマホを、画面を見ないようにしながら握りしめる。
「清子!カウンターのノーパソ起動して!」
「え、ノーパソって、どうするの!?」
「こいつに繋げる!」
言われたままにパソコンの電源をつける清子。その横で、僕はプロジェクターを取り出してケーブルに接続した。図書室のイベントで、たまに使うことがあったのを覚えていたのだ。
「どうするのそんなの!」
「良く分からないけど、多分あの星は光と形を両方見ることで作用する!光だけなら大丈夫だ!だからこいつで塗りつぶす!」
パソコンにスマホを繋げる。案の定、新しいウインドウが起動して、星空が表示された。すぐに裏返す。どういうウイルスか分からないけど、接続すれば即汚染されるらしい。
ドアの蝶つがいがはじけ飛んだ。もうバリケードの重さに頼るしかない。
ケーブルをつないで、プロジェクターのに電源を入れる。レンズの先は、ドアの向こうだ。
「目を瞑れ!」
バリケードが崩れ落ちた。図書室全体がきらめいていく。
だが、それ以上の光量が、プロジェクターから照射された。あまりの明るさに、輝美だったものの輪郭さえかすんでいく。
「ギィィイイイイ!!」
ガラスをひっかくような悲鳴だった。おそらく五芒星の形をしていただろう何かは、光の中で、文字通り溶けてしまった。
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