1

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「ほら、落ち着いて。外で他の人に見られたら大変なことになるわ。もしかしたら、石を投げられるかもしれない。もしかしたら、捕まってしまうかもしれないわ」 「ごめんなさい」  しゅんと沈んだ表情を見ると、私が小さい子供を虐めているように感じて、気が引けてしまう。 「ほら、試験に合格するための勉強なんでしょ? 頑張りなさい。応援してるから」  私の言葉を聞いたリノは「うん! 行ってきます!」とハキハキと言い終わるのが早いか、玄関から飛び出して行った。表情がコロコロと変わる子だ。  リノの姿が見えなくなると、私は玄関の隅に用意しておいた変装セット――伊達メガネ、ニット帽、少し大きめな地味な色のロングコート――を着る。黒く長い髪は目立ってバレてしまうかもしれないので、コートの中にしまい込んだ。  玄関の全身鏡で自身の姿を確認する。よほどしっかりと見ないと私だとは分からない。かつ、不審者だとは思われないであろう。いい塩梅なんじゃないかと我ながらに思った。  リノの姿を見失っては元も子もない。何度も二人で行ったスーパーなのだが、道に迷う可能性もないとは言い切れない。  私は急いで動きやすいスニーカーを履き、玄関から外に出る。アパートの階段を降り、リノの姿を追いかけた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!