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 彼女――リノと私は親子ではない。今年で二十五歳なのだから結婚が早い家庭なら、小学生くらいの娘が居ても不思議はないのかもしれないが。少し年の離れた姉妹でもない。  血も繋がっていない赤の他人だ。  リノと出会ったのは約一ヶ月前。私の住んでいるアパートの部屋の前だった。  私が仕事から帰り、アパートの階段を登ると、私の部屋の前で黄色い小さなリュックを背負った女の子がうつ伏せで倒れていた。あまりにきれいな姿勢で倒れているため、私は精巧な作りの人形が不法投棄されているのかと思った。  しかし、人形が小さく呻くのが耳に入り「あ、これは人形じゃないな。人間だ」と思い、次の瞬間には「このまま放置すると、この子を見つけた他の誰かが警察に通報して、目前の部屋の入居者である私が疑われるんじゃないか?」とその子を部屋に担ぎ込んでいた。  床に寝かせておくのも悪いと思い、布団に寝かせるために軽く汚れを落とす。 「ぷ……くくっ」  うめき声とは違う、堪えきれず笑いが溢れたような声が聞こえた。私が不審に思い女の子を(はた)いていた手を止め、じっと目を見つめる。  ぱっと目が開き、してやったりといった顔で女の子は笑った。 「あはは、騙されたね! 今のは狸寝入りだったんだよ!」  今の子供の間では、こういった遊びが流行っているのだろうか。不審者や誘拐に気をつけるよう親御さん達が注意を促しているというのに、子供はのんきなものだ。 「ん? 何も分からないって顔だね」  私が何も話さないのを、驚いて声も出ない顔だと判断したのだろう。自信満々に話を続ける。 「わたしの名前はリノ。人間で言うところの妖怪たぬきなの」  彼女は背負っていたリュックから何かを取り出し、私に差し出した。  妖怪の絵本だった。絵本を参考資料にしろということか。私はとりあえず受け取り、横に置いた。 「あなたが妖怪たぬきだっていう証拠は?」 「ちょっと、待ってね」  言う彼女の頭の辺りから丸い獣の耳が、お尻の辺りから丸くさわり心地の良さそうな獣の尻尾が現れた。  コスプレグッズじゃないのか、本物かどうかを確認するために私は、その耳と尻尾を撫でたり、取れないかと引っ張ったりしてみる。 「ちょっ……ダメだから! 痛いから! 無断で触っちゃダメなの!」 「あ、ごめん」  リノに振り払われ、私は手を離した。耳も尻尾も取れる気配はなく、直に女の子から生えている物らしい。それに、やっぱり触り心地は良かった。
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