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「ほら、財布はしっかり持った? 買い物のメモは?」
玄関で小学生くらいの女の子――リノにオレンジ色のマフラーを巻いてやりながら言い、私は母親みたいな物言いだなと思った。
「うん! 大丈夫だよ。もうケイは心配性なんだから」
元気に言いながらリノは可愛らしいキャラクター柄の財布と買い物メモを高々と掲げる。と同時にメモが手から零れ落ちた。
「本当に大丈夫?」
私は呆れながら一つため息をつく。
「だ、大丈夫だってば!」
照れ隠しなのかリノは落ちたメモを奪い取るように掴み、ズボンのポケットにしまい込んだ。
「まだ玄関から出てないからスタート前なの! 今のは失敗に入らないんだよ!」
必死に早口で言い訳をするリノに、私はもう一度大きくため息をついた。
「もう! ケイは心配しすぎ!」
リノは大袈裟に身体を揺らして、怒っているんだぞと表現し反論をする。
「これも勉強なんだから!」
「分かったから。早く行かないと暗くなるよ」
「う、うん。行ってきます」
いわゆる、はじめてのおつかいに緊張しているらしい。
リノは振り向き、玄関のドアノブを掴んだ。
「あー……待ちなさい」
私の声を聞き、リノは動きを止めて再び私に向き直る。何故引き止められたのか分かっていないようで、キョトンとした顔で私を見た。
「しっぽ」
言っても分かっていないらしく、表情は変わらない。私はリノの背中の辺りから見えている、丸くて大きな毛玉のような、触り心地の良さそうなそれを指さした。
リノはそれを手で確認すると「ふわっ?!」と大きな声で驚き、手で覆うように隠そうとした。
「いや、そんなんで隠れるわけないでしょ。ほら、落ち着いて」
リノの手を包むように、私の手を繋ぐ。冷静になった彼女は目を瞑り、何かを念じる。
ゆっくりとリノのおしりの辺りから出ていた尻尾は小さくなり、根元に格納されるように見えなくなった。
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