第十歌 薄闇の中で

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 迷いを断ち切るように、クヴァイトは一瞬目を閉じた。  次に目を開いた時には、ためらうことなくセレスティナの肩に手を置き、軽くゆすった。 「セレスティナ・アルハレス殿」  ぴくっと、セレスティナの瞼が動く。 「薬湯です――少しでも、お飲みください」  クヴァイトの声に、ゆっくりと、セレスティナの瞼が上がる。  白い睫毛に縁どられた金色の瞳が、薄闇の中で黄昏色に光っていた。  言葉もなく、その瞳を見つめる。    セレスティナはまだぼうっとしているようで、目の焦点が合っていない。  クヴァイトは寝台の上に腰を下ろし、身を捻って彼女をのぞき込む。 「ご自身で飲めますか?」  問いかけに、淡い反応が返ってくる。セレスティナはこくんと小さく頭を揺らした。 「飲みやすいように体を起こしましょう――ご無礼を」  栓をしたままの薬湯を左手に持ち、クヴァイトはセレスティナの背中に腕を差し入れて身を起こした。  その瞬間、毛皮と彼女の身との間にこもっていた熱が、ふっと宙に溶ける。  まだ、熱は完全に下がり切っていない。  起こした体を肩で支えながら、クヴァイトは薬湯の栓をとり、セレスティナの口元へ近づけた。 「少し苦いかもしれませんが――」  当てられた冷たい瓶の口に、ぴくっとセレスティナは反応したが、拒むことはしなかった。  ゆっくりと傾け口元へ流し込む。  彼女の喉が動く。  最初はためらっていたが、体が水分を欲していたのか、セレスティナは無心に与えられる薬湯を飲む。  飲み切ったことを確かめてから、クヴァイトはゆっくりと瓶を下げた。  再び、セレスティナは眠気に捕らわれたようで、うつらうつらと頭が揺れる。  クヴァイトは黙って彼女の体を横たえた。  乱れた服を整え、外衣と上掛けをかける。  眠り始めた彼女を、寝台に座ったままクヴァイトは見つめていた。  ふと気づき、汗で張り付いた髪をそっと額からはがす。  白い睫毛に彩られた瞼の奥には、黄金色の瞳が秘められている。  静かに心に思い描く。  ゆっくりと手を引くと、クヴァイトは寝台の縁から立ちあがった。
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