第十歌 薄闇の中で

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   瓶を机の上に置き、栓をする。  側に置いてあった長剣をその手で掴むと、腰に帯びた。  わずかにふらつく足を叱責しながら、クヴァイトは寝室の扉を開き食堂へと向かう。  光が目を刺す。  もう夜が明けていた。  霧が晴れた『北の塔』の上からは、格子越しに晴れ渡った空が見えた。  今は何刻だろうか、と考えながら庭に向けた目が、驚きに見開かれる。  クヴァイトは力を振り絞るようにして庭に向かった。  狭い『北の塔』の庭には、彼の龍、ヴァンダルの姿があった。  龍は丸くなって眠っている。 「ヴァンダル!」  主人の呼びかけに龍が首を伸ばす。 「龍舎に帰らなかったのか?」  大股にクヴァイトはヴァンダルの元に進んだ。  シドゥ・クレイスを邸宅に送り返した後、ヴァンダルは再び『北の塔』に戻り、クヴァイトを一晩中待っていたのだ。  傍らに立ち、しっとりと湿り気を吸った鱗に触れる。  龍は、詫びるようにクヴァイトに鼻先を押し付けてきた。 「私を――心配してくれたのか」  わずかな鳴き声が応える。  クヴァイトは龍に自分の額を当てた。 「雨に濡れて……」  今は上がっているが、どうやら一晩中降り続けていたらしい。ヴァンダルの鱗が全て湿っていた。  ここで彼の龍は、主人を待ち続けていたのだ。  龍なりに何か尋常でないものを感じ、少しでも側にいてくれようとしたのかもしれない。  生きて再び自分の龍に触れられていることを噛み締める。  しばらく、クヴァイトは無言で龍に身を預けていた。 「もう少し待っていてくれ。用事を済ませてくる」  小さく、クヴァイトは呟く。  龍の頭が揺れる。  ポンと、叩くと、クヴァイトは踵を返して部屋に向かった。  真っ直ぐ部屋を横切ると、昨夜施していた仮の封印を解いた。  それだけで、腕が痺れたようになる。想像以上に、力を失っている。  解いた瞬間、扉がはじかれたように開き、魔族の娘が荒い息をつきながら、その向こうの空間から現れた。
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