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瓶を机の上に置き、栓をする。
側に置いてあった長剣をその手で掴むと、腰に帯びた。
わずかにふらつく足を叱責しながら、クヴァイトは寝室の扉を開き食堂へと向かう。
光が目を刺す。
もう夜が明けていた。
霧が晴れた『北の塔』の上からは、格子越しに晴れ渡った空が見えた。
今は何刻だろうか、と考えながら庭に向けた目が、驚きに見開かれる。
クヴァイトは力を振り絞るようにして庭に向かった。
狭い『北の塔』の庭には、彼の龍、ヴァンダルの姿があった。
龍は丸くなって眠っている。
「ヴァンダル!」
主人の呼びかけに龍が首を伸ばす。
「龍舎に帰らなかったのか?」
大股にクヴァイトはヴァンダルの元に進んだ。
シドゥ・クレイスを邸宅に送り返した後、ヴァンダルは再び『北の塔』に戻り、クヴァイトを一晩中待っていたのだ。
傍らに立ち、しっとりと湿り気を吸った鱗に触れる。
龍は、詫びるようにクヴァイトに鼻先を押し付けてきた。
「私を――心配してくれたのか」
わずかな鳴き声が応える。
クヴァイトは龍に自分の額を当てた。
「雨に濡れて……」
今は上がっているが、どうやら一晩中降り続けていたらしい。ヴァンダルの鱗が全て湿っていた。
ここで彼の龍は、主人を待ち続けていたのだ。
龍なりに何か尋常でないものを感じ、少しでも側にいてくれようとしたのかもしれない。
生きて再び自分の龍に触れられていることを噛み締める。
しばらく、クヴァイトは無言で龍に身を預けていた。
「もう少し待っていてくれ。用事を済ませてくる」
小さく、クヴァイトは呟く。
龍の頭が揺れる。
ポンと、叩くと、クヴァイトは踵を返して部屋に向かった。
真っ直ぐ部屋を横切ると、昨夜施していた仮の封印を解いた。
それだけで、腕が痺れたようになる。想像以上に、力を失っている。
解いた瞬間、扉がはじかれたように開き、魔族の娘が荒い息をつきながら、その向こうの空間から現れた。
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