第六歌 紅の獅子

5/14
698人が本棚に入れています
本棚に追加
/1534ページ
     魔族の娘はクヴァイトを認めると、指示を仰ぐように瞬きを数度した。 『セレスティナ・アルハレス殿の寝所の床にこの毛皮を敷き、寒さから身を守ってやれ』  うなずきで答えると、娘は毛皮を手に寝室に向かう。    クヴァイトは戦装束を解き、まとっていた鎖帷子を床に落とした。  それだけでも体が随分軽い。  濡れた服を手早く脱ぎ去り、軽く絞って体を拭いてから、娘が運んできた衣を身にまとう。  服を替えた後、クヴァイトも魔族の娘の後を追い寝室へ向かった。  娘は苦戦をしていた。  眠るセレスティナの身体の下に、上手く毛皮を敷くことが出来ないようだ。 『下がっていろ』  クヴァイトは鋭く命じた。  びくっと、娘が後ずさる。  娘が離れたところで、クヴァイトは大股に寝台に近づき、身を屈めてセレスティナの体をかけている外衣ごと抱き上げる。  彼女の体が消えた寝台へ、クヴァイトは顎で指示した。 『毛皮を早く敷いてやれ』  意図を察して魔族の娘が動く。  それまで寝台に敷かれていた湿気を帯びる薄い寝具を取り去り、手早く毛皮を隙間なく敷き詰める。どういう手を使ったのか、あの短時間の内に、魔族の娘は三枚も毛皮を用意してきていた。  作業を見守るクヴァイトの腕の中で、セレスティナが身を震わせた。  視線を落として様子を見守る。  寒いのだろう。  温もりを与えるように、わずかに腕に力を籠める。  敷き終えて、娘が顔を上げた。  これで良いか? と許可を待つような顔に、頷きを与える。 『良いだろう』  クヴァイトは呟くと、腕にしていたセレスティナの体を、そっと、新しく敷かれた毛皮の上に横たえた。  もっと早く、こうしておくべきだった。  苦い後悔を噛み締めながら、クヴァイトは彼女が安らぐような形に整える。  塔へ封じられるのは、いわば百戦錬磨の手練れの魔導士たちだった。  どんな過酷な状況でも、彼らは快適な住居へと変ずることができるほどの技量を持っている。  それに引き換え、彼女は――無防備な幼子のようだ。  クヴァイトは目を細めた。  内に秘めている力は、大魔導士の水盤を断ち割るほどに強大であるのに。  自分自身の身すら守ることも出来ず、セレスティナ・アルハレスは寒さに震えていた。  クヴァイトは外衣をかけ直した。  熱を帯びる顔を見つめてから、首を巡らせて魔族の娘を見る。 『濡れた服を持って行ってくれ。食事を下げて、そのまま戻るがいい』  再び、娘が顔を上げてクヴァイトを見た。  ちらっと、セレスティナを見る。  安否をうかがうような眼差しだ。 『セレスティナ・アルハレス殿には、私が一晩ついて様子を見る。お前は下がれ』
/1534ページ

最初のコメントを投稿しよう!