呼び子が三つ鳴ったから

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 霧子は器量の良い娘であったが、いつからか街の連中は彼女を忌んだ。  霧子は黒い服しか身に着けない。  太陽の下で女が召す色として、世は気味がり目を逸らす。  しかし霧子は黒い服しか持っていなかった。  育ての親が亡くなった時に金目の家財は葬儀代として手放した。そうして霧子は艶やかに刺繍や染めの入った服を、高価で売れるという理由ではなく、黒が好きだという理由で手放した。売れるものは売り、価値の付かなかったものは処分した。  霧子の手元には、黒い服のみが残された。  朝の呼び子は二つ。霧子は黒い服を身に着けて街へ出る。  すれ違った一人目が奇妙な顔をしたあとに顔を逸らした。黒が気に入っている霧子は何も気にしなかった。しかしその後に行き合った全ての人間が彼女から目を逸らした。霧子とて黒が女の身に着ける色として相応しくないことは理解していた。そうして手元には黒い服しかなければ、黒い服以外を欲していない。  毎日黒を身に纏い街へ出向いていたら、いつしか街人の視界から霧子は消えていた。
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