呼び子が三つ鳴ったから

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 ある日、家の前に小箱が置かれていた。  「あなたのその黒いお召し物、とても似合ってらっしゃる。見かける度に惚れ惚れとします」  そう書き添えられた手紙と共に、普段霧子が手にしない、彼女にとっては高価に当たる食料が詰められていた。  普通ならば気味悪く思うだろう。しかし孤独を知り過ぎている霧子は喜びを覚えた。自分が誰の視界にも入らないことを、彼女自身も知ったいたのだから。 その頃、霧子は街へ出なくなっており、備蓄の食料で細々と暮らしていた。買い物をしようにも誰も彼女が見えていないから何もしようがない。  霧子は、黒を手放したくなくて孤独を手にした。  翌日もその翌日も、手紙と共に小箱が置かれている。  小箱が置かれるのが闇夜を告げる呼び子と同時刻であった。数日でそれに気付いた霧子は、贈り主を知りたいと、ある日家の前で贈り主を待つことにした。
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