呼び子が三つ鳴ったから

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 こだまは暗闇に目が効く。彼は美しい所作で霧子が落としたランタンを拾い上げ、空いている手を添えて彼女へランタンを持たせた。 「霧ちゃん、これからはどうやって渡したらいいかな」  そうして違和感なくこだまを受け入れた霧子の髪を撫でた。顔を上げて彼を見上げると、霧子はその深い目に釘付けとなった。出てきた言葉は吸い込まれるように発せられた。 「お顔を見せてください。こだまさん、夜が来たならば、どうかわたしの元へいらしてほしいの」  久々に人へ触れた霧子は無意識に甘えを漏らしていた。するとこだまは小さく笑って「そうしよう」と呟いた。  これが二人の出会いである。こだまは霧子を知っていたけれども、霧子はこだまを知らなかったはずであった。今まで手紙に贈り主の名前が記されていることもなかった。 「霧ちゃんは甘えん坊だね」  可笑しそうにそう言ったこだまの穏やかさに、霧子は頰を染めながら、安堵と幸福感を覚えた。黒が似合うと言ってくれる誰かに出会えたことなのか、こだまに出会えたことなのか、彼がこれから自分の元へ通ってくれるに違いないからか、理由は明白ではなかったが、闇に光ではな何物かが満ちた。  それから後、こだまは呼び子が三つ鳴ると霧子の元へやって来て、呼び子が二つ鳴る頃、出掛けるように彼女の元を去るようになった。
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