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第11話
明朝。
森の木に寄り添いながら寝ていたのだが、気持ちが落ち着いたからか、いつもよりよく眠れた気がする。
「あっ!アカツキ起きた―ッ!」
「おはよー、アカツキ~!」
「起きた!遊ぶ?遊ぼ!」
近くで眠っていた妖精達が、羽をパタパタと羽ばたかせながら集まって来た。
「ごめんね、学校に行かないといけないから。」
「学校?」
「それって楽しい場所?」
「楽しくなさそう。」
楽しい…か。身構えてばかりいて、学生生活を楽しむという考えはあまりなかった気がする。
けれど…
「これから楽しくなる予定だよ。」
「いいな~!」
「連れてって~!」
「私も~!」
さすがに連れては行けないな。あちら側の方が危険は多いし…。
「今度は、友達を連れて遊びに来るから。楽しみにしててね! …では、行ってきます!」
「遊び~!」
「やった~!」
「いってらっしゃ~い!」
次に来る時までに、友達が増えてるといいな…。
…数分後、学校に到着。
「あっ、魔王だ!」
「こら!王子に失礼でしょ!」
良かった。一部の生徒には、リンクが弁明してくれたから、そこまで悪く思われていないみたい。
「打ち首にされるわよ!」
「そうだった。」
違った、そっちらでしたか…。
打ち首。もう完全にクラスメイトは忘れていると思います。いやむしろ、俺自身が打ち首だな。
ガラガラガラ…
「アカツキ王子!」
「王子、おはようございます!」
「おはようございます!」
「おはよう…ございます。」
教育室に入ると、普段話した事の無かったクラスメイトに、急に話しかけられた。何故?
「王子、精霊と会わせてもらえるって本当ですか?」
「先ほどカイン王子から聞きました!」
どうやら、昨日休んでいた人達のようだ。
「はい。この度は、私の魔法の暴走のせいで、大怪我をさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。」
「いえ、自分達がまだまだ未熟だと、改めて学習することができましたので。」
「我々は、むしろ感謝しています。」
あなた方は、俺よりもメンタルが強いですね…かなり。
「ありがとう…次は、もうしません…」
「アカツキ!朝から辛気臭い顔やめろ!」
「そうですよ、我々がきちんとアカツキの武勇伝を語って、皆さんあなたの事を理解してくださったんですから!」
武勇伝…。あの頃はただ、やんちゃしていただけです。
「アカツキ王子、幼き頃から強く優しい人だったのですね!」
「三人の王子の救世主とは、惚れ惚れします!」
タクト、カイン。君達も、弁明してくれたのか。
「二人共、ありがとうございます。」
「良いって事よ!」
「友ですから、当然です!」
神様に感謝します。三人の王子を友達にしてくれて、本当にありがとう。
「どうやら、ルナもアカツキに昔助けられたらしいぜ!」
「そうなんですよ!私も、先程聞いて驚きました!」
「そ…そうなんですね。」
俺も今、聞いて驚いたよ…。
俺との出会いイベントは、どうやら入学前に済ませていたようだ。
「アカツキ王子、あの時はありがとうございました。あなたに助けていただかねば、今頃私は此処には居なかったでしょう。」
「街中で誘拐されそうになった時に助けたらしいな!」
「さすがアカツキですね!」
すみません。そういう人ならば、何十人も助けています。特に海沿いは、どの国でもかなり治安が悪いので…。
「私はその時からずっと、アカツキ王子にもう一度会いたいと思っていました!」
「そうなんですね。」
こういう時、どう反応したら良いか全く分かりません。
教えてください、女性慣れした攻略対象者様…。
「これはもう決まったんじゃないか?」
「決まりですね!」
何が?
「はい!私は妖精に会うよりも、アカツキ王子と外出がしたいです!」
なるほど、決まったね。この発言により、俺ルートは確定しましたとさ…。
「…私を選んでいただき、誠にありがとうございます。」
「よっ!モテ男!」
「羨ましいです!」
今は茶化さないでください。ウサギさん、帽子屋さん。
「アカツキ王子と聖女のルナならば、お似合いですね!」
「ルナおめでとう!」
「おめでと~!」「聖女ばんざーい!アカツキ王子ばんざーい!」
いや、おめでとうって…まだ、付き合ってもいないのですが…。
「ありがとうございます!頑張ります!」
彼女は、頬を赤く染めながら満更でもないご様子でした。
ちなみに、この後どのようにしたら、別のルートに行くのでしょうか?教えて、攻略まとめサイト。
…バンッ
先生が、教室の扉を勢い良く開け入って来た。
「皆さん、急いで席についてください!」
急ぎ?何だろう…。
先生に従い、皆は足早に席に着いた。
「本日は、この国で最もお偉いお方がいらっしゃっています。皆さん、失礼の無いように! それでは、どうぞ!」
「失礼する!」
この声は…まさか…。
「国王だ!」「あれがこの国の王様。」
「初めて見ましたわ。」
「お前もこっちに来い!アカツキ!」
「はい…父上…」
来てしまった…。親が謝罪に。
側近の騎士ハンリーと、ベテラン執事であるスネイルを連れて…。
「此度は、我が息子アカツキが皆に多大な被害を被り、大変申し訳なかった!親である私が、自由にさせ過ぎた事がいけなかったのだろう。面目無いっ!」
「いえ、父上…私が…」
「お前は、黙っていろ!!」
「…はい」
言い訳をするつもりでは無かった。
親にまで迷惑をかけたと実感し、自分が情けなく思い、何かを言いたくなった。
「此度の謝罪を込め、この教室の皆を我が城の晩餐会に招待する事にする!」
「日時は、週末である明日の19時。場所は、王宮の本殿とします。あくまでも、生徒のみのご参加でよろしくお願い致します。」
晩餐会…何かありそうだな。
「王宮!」「しかも本殿!王族のみが入れる幻の!」
「これは、父にもご報告せねば!」
「王族関係者以外誰も、入る事のできないあの場所で。」
「素晴らしいですわ!両親ですら入った事のないあの場所で。」
「光栄です!」
ハート国王城の本殿は、公爵家以上でないと入る事が許されていない。ここにいる生徒のほとんどが入った事が無いだろう。他の王子は、何度か来ているが。
「皆さん、静粛に!」
「よいよい。我々は誠意を尽くして皆をもてなす所存。急な事で、誠に申し訳ない。正式な謝罪は、明日の夜にする。」
「これも、ルナのおかげですわね!」
「ルナ!ばんざーい!」
父は、ルナの事を知らないはず…。
「ん?ルナとは誰ぞ?」
「こちらの女性です!ギルバート王!」
「聖女なんですよ!ちなみにアカツキのこれ!」
二人とも余計な事を言わないでおくれ…。
タクト君、その小指を立てているサインは何かな?
「ほほう、この者が癒しの聖女か。気が、かつての我が師に似ておるな。」
えっ?…父の師匠?そんな人がいたのだな。
「はい。数年前に亡くなられた、アリス様のお孫さんです。」
アリス!ここで来るのかアリス設定。
「我が師の孫も同じ聖女となるとは、なんと素晴らしい!」
聖女って…昔もいたんですね。
「ルナ殿と言ったかな?」
「はい!私がルナです!アカツキ様には、いつもお世話になっております!」
国王の前だと、かなり緊張するよな…普通。
「良い目だ。度胸も据わっていて素晴らしいな!」
「勿体無き御言葉です、国王。」
「こやつは、何でも力で解決しようとする。お主のようなしっかりとした者に叱られなければ、だめかもしれん。かつての我が師のように、有無を言わさずこやつを真人間に育ててやってくれ!」
「はい!承りました!」
承ってしまったよ。
どうやら、俺に拒否権は無いようですね。親公認…。
「では皆の者、また明日に会おう!!」
パチパチパチパチ…
王の去り際、何故か拍手喝采が広がっていた。
「さすが国王、いつも通り声が大きい。」
「威厳が有ります。ですよね?アカツキ。」
「はい…」
そうだ。忘れてはいけない、追いかけて父に謝罪をせねば。
「父上!」
「アカツキか。」
「この度は、申し訳ございませんでした。」
「お叱りは先生から受けただろうから、こちらからは何も言わぬ。だがな、我…いや俺はな、お前に謝罪される為に行動をしたわけではないぞ。」
「はい。…父上のお心使いに、感謝致します。私の思いつかない謝罪方法でした。己の未熟さを、また改めて自覚しました。」
「そうだ!お前はまだ、親に迷惑をかけるような子供だという事だ!」
「くっ…そうですね。」
悔しい…。自分が未熟者だと下に見られているのが悔しい。
「力では、お前に負けかもしれぬが。まだまだ、内面いや、ハートでは負ける気がせぬな!」
「はい。頑張ります。」
「精進せよアカツキ。さらばっ!」
「失礼します、お坊っちゃま。」
「じゃあな!アカ坊!」
内面…。誰にも勝てる気がしないです。
というか、何か重要な事を忘れている気がする…。
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