イカ退治はつらいよ……

　太平洋上の日本領海内を東に向けて航行しているが、艦橋から見えるのは青々とした雲ひとつ無い空と大海原だけだった。

　今回の密着取材の対象者である戦艦〈カグツチ・フタ〉の航海士の西村蓮中尉が昨夜から今朝までの当直勤務を終えて艦内の居住区画待機に入り、彼のそばで取材を続けていた遠賀龍志は、従軍記者用として居住区画に常時設けられている簡素な２人部屋へと戻った。この部屋を使っているのは龍志ひとりのみで、使っていない方のベッドの上には知人の士官から貰った迷彩色のリュックサックやダウンジャケットなど無造作に置かれていた。
　デジタルカメラやミニレコーダーに保存していたデータをパソコン経由でＵＳＢにコピーし、寝る為に使用しているもうひとつのベッドに横になった龍志は束の間の休息を迎えた。

　人類政府軍アジア太平洋軍統合事務局でタブロイド紙の発行やネットニュースの配信を行うメディア〈マレ・パシフィクム〉の従軍記者として契約している龍志は、週刊四文という日本の有名週刊誌の編集部で政治や芸能などジャンル関係無く様々なスクープをすっぱ抜いた実績を残しただけでなく、今も尚存在し続けている紛争地域で戦場ジャーナリストとして世界各地を渡り歩いて取材活動をした経験を持っていた。
　それらの多くの経験は、取材活動を通じて［世界中で起こる様々な事象を自らの肉眼にはっきりと焼き付けたい！］という龍志のジャーナリストとしての思いからなる行動によるものであり、従軍記者として契約し様々な軍の部隊に張り付いて取材活動をするのもその思いからなるものであった。