ラ・ヴァルス

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ラ・ヴァルス

 遠くの景色が霞んでみえる。 近くで大型のクレーンが大きな鉄材を空に持ち上げている。 ここにあったはずの畑はもう跡形もなくなり、そこにあるのは、白い布に『工事中・危険・ご迷惑をおかけします』と書いてある文字だけ。 でも、その布で覆われていない空に向かって伸びている多くの部分は、中身が丸見えの建設途中のビルの骨格のみ。 その最上段に大型のクレーンはあった。 それをカフェのテラスで見ながら、彼は私に囁いた。 「ねぇ、ボクは君が好きだ。 ねぇ、良かったら付き合ってよ。」 私は、驚いたのと嬉しいのと、そして戸惑いとを感じながら、心臓の激しい鼓動を感じていた。 そして、『うん』と頷く。 でも、さっきまで普通に見れていたはずの彼の顔が眩しくて見られない。 私の人生最初のデートは、こうして始まり、二人で電車に乗って帰る途中はお互い手を繋ぐ事もなく「バイバイ、またね。」 と言って、それで終わった。
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